歌書物

□想い人
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布団の中でうつらうつらと官兵衛殿の事を考える。
何故だか官兵衛殿の事を思い出すのが勿体ないような気がする。

「俺だけの大切な思い出だし」

独り言を呟く。勿論誰も返してはくれない。

「それに」

官兵衛殿の事を考えてたら、ついついにやけちゃうから恥ずかしいったらありゃしない。


きっと今頃執務に追われてるんだろうな。俺の執務全部官兵衛殿が受けもっちゃったし。
身体が病に侵される前までは、官兵衛殿の部屋によく行った。
官兵衛殿が疲れているのは承知していたし、俺だって長居はしないよう努めてた。
でも、

「構わぬ」

そう言って抱き抱えてくれる官兵衛殿の優しさに甘えて、何度もその不器用な腕の中で眠りにおちた。












「会いたいな……」

そんな願いが胸に込み上げる。しかし今のこの様態では無理だった。
日に日に痩せほそっていく己の身体は、自分でもわかるほど不健康な白さを放っている。
そんな姿を見せたくないし、人に感染するかもしれない病に官兵衛殿をまきこみたくなかった。

「官兵衛殿……」

「どうした」

部屋に届いた低い声に俺は驚く。
すっと襖が開き、俺に負けない不健康そうな顔色をした官兵衛殿が現れると俺は何も言えず口をぱくぱくさせた。

「仕事が一段落した。具合はどうだ?」

側に腰をおとし、労るように官兵衛殿が訊ねてくる。

「うーん。そろそろお迎えがきそうかな」

そんな冗談を口にする。
官兵衛殿は笑うわけでもなく、ただ俺を見ていた。



そんな顔しないでよ。
死ぬに死ねないじゃんか……
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