歌書物
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「たまたま見つけたんだ」
「そうか……なかなか良い雰囲気のバーではないか」
そう言って俺と三成はカウンターに座る。
さっき言った言葉は嘘。本当はずっと前から三成をここへ連れてきたかった。
「三成、お前の指のそれ」
「ん?これか?その……左近にもらったのだ」
そう言って三成は嬉しそうに指輪を見つめた。
キャンドルが不安定に揺れる隣で、俺は何とも言えずにただ三成の横顔を見ていた。
お前の心に俺の気持ちは届かないことぐらいわかっている。けど、諦めれない想いが俺を蝕む。
気がつけば俺達の前にはバーボンとカシスソーダが置かれていた。三成はカシスソーダに手を伸ばし、一口飲む。
「美味いな」
そう言って綺麗に笑う。
俺はそうだな、と言ってバーボンに口をつけた。
『この酒がなくなるまでは、お前は俺のものだよな?』
そんな切ない想いが胸を締め付ける。
このまま時間が止まってしまえば三成はずっと側にいる。そんなことを考え始めた俺は、もう酔ってきたかと思うが紛れもない本心に、行き場のない溜め息がさ迷う。
「酔っ払うなよ」
「ふん、この程度ては酔わぬ」
そのわりにはうっすらと頬が赤い。
忠告しておきながら、酔ってしまえと思う。そして俺にもたれ掛かればいいのにと……
そんな考えを振り払うように三成から目を逸らした。