歌書物

□伝う
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愛されたい、でも愛そうとしない。その繰り返しの中をさ迷い、俺が見つけた答えは一つ。
怖くても、傷付いてもいい。
左近に好きだと伝えるのだ。






左近が俺を愛してるか愛してないか、と以前の俺は考えもしたが、今となってはそんなことはどうでもよい。
どんなに願い、望もうとこの世には変えられぬ不変というものが存在する。
そして俺が左近を愛しているという事実は、誰にも変えられぬ真実なのだ。
だから今、左近に会いに行く。伝える言葉を何度も頭に思い浮かべながら俺は歩く。
伝えたいという気持ちと、それを言葉にするのが怖いという気持ち。
しかし俺はその気持ちを抑え、左近の元へ行く。




この広い世の中で巡りあった事が奇跡のように思われる。
初めて左近に会ったときは、飄々として掴み所がなく気に食わなかったが、左近を知るにつれ、俺は左近に惹かれていった。真面目に執務をこなす姿、政事に対する知識の多さ、人懐っこい笑みに優しい声。すべてが愛しいと思えた。







こんな風に誰かを思ったことなどなかった。
昔は己の過去とこれから訪れる未来に悩み、自身と向き合うことを恐れ、差しのべられた手を素直にとることができなかった。
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