書物

□仲直り
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左近は三成と喧嘩した。




それは些細なことで、いつものようにろくに食事を取らず、徹夜で執務をする三成に、身体に障るからと口を挟んだことから始まった。
三成は相変わらず、自分の意思を曲げようとせず、筆を置こうとしなかった。左近も少しばかりむきになり、無理矢理三成の手から筆を奪い取った。
もちろん、三成の顔はみるみる険しいものへと変わる。

「何をする!」

「何回言っても左近の忠告を聞かないじゃないですか」

「まだ執務が終わってないのだよ」

「駄目です。明日左近も一緒に手伝いますから。今日はもうお休み下さい」

ここでいつもなら一つ二つ文句を言いながらも、渋々といった否かなり不満そうな顔をしながらも床についてくれるのだが、今回は違った。

「休め、休めと、俺が休んだら誰がこの書状を書くのだ!?左近にできぬ執務だって山のようにある!期限付きのものもだ!それをなおざりにして休めと言うのか!?」

「誰もそうは言ってないでしょう?左近は左近の出来る範囲で殿を手伝いたいと」

「貴様も執務が残っているのにか?自分の今目の前にあるものから片付けろ。俺のことは構うな!己の身体ぐらい管理出来る」

左近から筆を取り返すと三成は執務に戻ってしまった。
それでも尚左近は三成に言い聞かせようとしたが、遂には不機嫌丸出しの顔をされ、出ていけと追い出された。
左近は虚しさと、呆れと、徒労感から重い溜め息をつき、自室へ引き返した。




明日になれば、少しは機嫌も良くなっているだろう。そう思いながら。








しかし翌日左近が三成の部屋へ向かうと誰も居らず、書きかけの書状が置いてあるだけであった。
厠かと思い、しばらく待っていたが帰ってくる気配はない。
心配になった左近は三成を探しに部屋を出た。










結論から言えば、城の中に三成はいなかった。近くにいた小姓に訊ねてみたが、今朝会って以来目にしていないという。

「どうしたもんかね」

頭を無造作に掻き回す。その時一つの考えが頭をよぎる。

「まさか、城下へ?」

しかし、三成が城下へ行くことはほとんどない。元々外に出るのを嫌がる三成が城下に何の用があるだろうか?

「それに書状も書きかけだ」

仕事に忠実な三成がそれを放棄してまでの事があるのか。

「一応、城下へ行ってみるかな」

そう呟き、一歩踏み出したその時後ろから声がした。
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