書物
□仲直り
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「左近?」
聞き慣れた声に直ぐ様振り向くと、三成がどうしたのかというように首を傾げ、こちらを見ていた。
左近が三成の元に駆け寄ると、驚いたように一歩後ずさった。
「殿!どちらにいらしたのですか!?」
「じ、城下に行っていた」
左近の剣幕に驚き、三成は身体を小さくする。左近は溜め息をつき、三成に言った。
「城下へ行く際にはお供をお付けして下さいと、あれほど言ったじゃないですか!?」
自らの口から出た言葉が思ったよりもきつくなってしまい、左近は口を閉じた。三成はと言えばさらに身体を小さくさせ、顔をふせている。先ほどから持っている紙の包みを腕に抱いたまま動かない。
「す、すいません。今のは」
すぐに左近が謝罪の言葉を口にすると、三成は弱々しく首を横にふった。
「言い付けを守らなかった俺が悪いのだ。すまぬ」
「あ、いえ、いいんです。殿が無事なら。書状が途中になっていましたが、何か急用でもあったんですか?」
「それは、あの……だな」
何やら決まり悪そうに三成が口ごもる。
「無理に言わなくても良いんですよ。言いたくないことだってあるでしょうし」
「ち、違うのだよ!!」
大声で三成は否定する。左近が目を丸くすると、三成は恥ずかしそうに目線をさ迷わせながら、呟くように言った。
「謝ろうと思ったのだよ」
「はい?」
「昨日左近にひどく当たってしまったから、悪いと思って。上手く仕事がいかぬからと、我ながら幼稚な八つ当たりだった」
「そんなことは」
「いや、俺が悪い。だから左近に謝りたくて、しかし面と向かっては言いずらくて……」
「それで城下に?」
三成がこくりと頷く。
「城下でいつも左近が美味いと言っている団子を買いに行ってきたのだ」
そう言って腕の中の紙包をみる。
ようやく三成の意図が分かり、左近は微笑んだ。
不器用な三成は上手く謝ることが出来ず、せめてもの詫びにと左近のために団子を買いに出掛けていたのだ。小姓に伝えなかったのは恥ずかしかったからだろう。
その行動が嬉しくて、左近は三成の頭を撫でる。細く柔らかい髪が心地よく指に絡まる。
「ありがとうございます。殿の気持ち、左近はとても嬉しいです」
「本当か?」
「ええ。仕事一番の殿が、仕事より左近を選んで下さったんです。これ以上嬉しいことはないですよ」
左近がそう言うと、三成は顔を紅くしてそっぽを向いてしまった。
そんな三成が愛しくて、抱き締めたい衝動に駆られたがぐっと堪える。
その代わり、
「それでは、殿が買ってきていただいた団子でも食べましょうか」
左近の案に三成は黙って頷く。
今日の団子はさぞかし甘いだろうなと思いながら、左近は軽い足取りで三成の部屋へ向かった。