ガンダムSEED・DESTINY

□雪玉の約束
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 その白さが眩しくて、少し羨ましくて――今だけは自分で居たいと思った。




「ねえ、レイ!」


 射撃訓練を終えるなり、ルナマリアが声をかけてきて、レイは足を止めた。


「何だ?」


 自分でも驚くほど短い返事を思いつつも、レイはルナマリアに目を向ける。

 しかしルナマリアはそんなことなどまったく気にもしてないようで、嬉しそうな顔でこちらを見つめている。

 一体、どうしたのだろうか?

 レイはもう一度、同じ問いかけをしようとしたが、それよりも早くルナマリアが話す。


「雪が降ってきたのよ! だから一緒に見ましょ」

「雪?」

「そう! もうすっごく綺麗なのよ。レイ、早くきて」


 ルナマリアはそう言うと、返答を待つこともなく、レイの腕を引っ張る。

 突然のことにレイは少し態勢を崩しそうになったが、すぐに立て直すと、低い声で「ルナマリア」と彼女の名を呼んだ。


「あ、ごめん。痛かった? ……怒ってる?」

「いや、そういうわけではない。ただ」


 ルナマリアの周りにはシンやメイリンたちがいる。

 誰が見ても仲は良くて、特に妹のメイリンとは見ているこちらが和むほどの仲の良さ。

 何が言いたいのかというと、わざわざレイを呼びに来なくても、シンやメイリンと一緒に見ればいいのでは?ということ。

 あまり感動を口にしない自分を誘うよりはシンやメイリンたちと見る方が確実に楽しいと思う。

 レイはもう一度、ルナマリアの名前を呼ぶ。すると彼女は「なに?」と首をかしげて答えた。


「何でオレを?」

「何でって……。雪がすごく綺麗だから」


 そう言ってルナマリアは笑った。そんなルナマリアの曇りない笑顔に、レイの思考が一瞬、止まる。


「どうしたの、レイ? ちょっと、レイ?」

「あ、いや。何でもない」

「もしかして、レイは雪が嫌いだったりする? でも綺麗だから、一緒に見よう」


 『嫌い?』と聞いておきながら『一緒に見よう』とは、すでにレイに断る権利はないらしい。

 普段なら「他のやつと見ろ」と答えを出しそうになるのに、どうしてだろうか。そんな言葉は出てこない。

 そんなことを考えていると、いつの間にか、冷たい空気がレイの身体を包んでいた。


「ほら見て、レイ」


 ルナマリアに言われて、外を見ると、目の前に広がったのは白い景色。空から降り積もる雪は止まることを知らないのか、未だゆっくりと舞い降りている。


「ね、綺麗でしょ?」


 子供のように笑うルナマリア。

 その顔を見て、レイは胸が熱くなるのを感じた。冷えていく身体など気にもならないくらいに温かい。

 それはきっとレイの中で失われつつあるもので、そしてレイがいらないと置き去りにしようとしたもの。

 この戦乱を終わらせるためには不要だと思っている感情。


「レイ?」

「あ、ああ。綺麗だな」

「でしょ!」


 無邪気なルナマリアの表情がさらにレイの胸を温める。

 分かってはいる。自分がここにいられる人間、ルナマリアと一緒にいれる人間ではないということは。

 レイの運命と彼女の運命は違う。きっと決してまじわることはない。


(オレは普通の人間ではない。だから彼女とは……でも)


「ねえ、レイ。来年もまた見ましょ。今度は大きい雪だるまとか作りたいなあ」

「子供みたいだな、ルナマリア」

「もうぉ! レイはそうやって、いっつも子供扱いするんだから」

「いや、そう言うつもりはない。けど、雪だるまか……可愛いのを作らないとな」

「レイ……」

「なんだ?」

「じゃあ目や鼻も作らないとね! やっぱり鼻はニンジンがいいかな〜? いや、その前に戦争を終わらせないとダメか」


 懸命に考えるルナマリアから、レイはそっと視線を外す。

 そして少しだけ積もっている雪を手に取り、丸く握る。

 それをどうするかなど聞くまでもない。レイは作った雪玉をルナマリアに向かって投げた。

 外れはしない命中だ。


「きゃっ! ちょっとレイ、なにを」

「いや。ちょっと投げたくなっただけだ」

「レイ、もしかして少しはしゃいでる?」

「雪が綺麗だからな」

「もー、なにそれ? 意味が分からない。でもぉ、お返しは忘れないわよ!」


 ルナマリアも近くの雪を丸めて、雪玉を作る。そしてレイに向かって投げた。

 しかしレイはそれをさくっと避ける。


「ルナマリア、そんな投げ方じゃ中らないぞ。雪玉もビームも」

「なっ! 言ってくれるわね。許さないわよっ!」


 ルナマリアが投げつけてくる雪玉を避けながら、レイもまた雪玉を投げる。



(自分でも子供じみていると思う。でも今だけはどうか、このまま――)



END
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