ガンダムSEED・DESTINY
□貴方の言葉
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夜空の星を艦内で見つめながらミリアリアは考えていた。
その頭の中は辛いことというよりは、不安に近くて。ミリアリアは溜息を吐いた。
その原因は恋人であるトールのこと。
彼は今日もまた、懸命に操縦訓練をしている。
別にそれがいけないことではない。そもそも軍に志願したのだ。
全く持って、彼の行動に不審点はない。
ただ恋人というミリアリアから見て、それはとても不安で仕方のない行動。
一度戦場の前線で戦ったトール。あの時、どんなに不安だったか――戦場の前線はかなりの危険を伴う。そう思うと、ミリアリアの心はギクシャクしていた。
「『発進、どうぞ』……か」
ミリアリアはそうポツリと呟いた。
パイロットが戦艦から出る時にミリアリアが必ず言う台詞。
いつも明るくミリアリアはその言葉を口にしている。
オペレーターをしていた人に、「大丈夫か?」と言われた。
その時はどういうことだろうかとよく分からずに、キラやムウに「発進どうぞ」と言っていた。
しかしこの間の一戦で、トールが発進した時、初めてその言葉の意味がミリアリアに分かった。
オペレーターとは艦内から戦場へ出るパイロットの一番最後を見送る立場。
だからこそ、誰よりも不安な顔をすることなく、送り出さなければならない。
不安な顔はパイロットに不安感を与えてしまうから。
愛する人の出発がどんなに心配でも「頑張って」と気丈に振る舞い、不安を感じさせない顔で、発進の合図を送るのだ。
その際に、泣き出すということをしてはいけない。
どんな時も――。
それが自分に課された仕事。
そう思考を巡らせると、ミリアリアは大きな溜息を吐いた。
「トール……」
小さな声で呟くと、ふいに両目が誰かの手によりふさがれた。
「だーれだっ!」
元気よく耳に伝わる声。考えずとも、その手の主が誰なのかは理解出来た。
こんなに悩んで、不安で仕方ないというのに、もう少しくらい察してほしいと言わんばかりに、ミリアリアは呆れた声で返す。
「トールでしょ」
するとトールは「あれ、分かっちゃった?」とおどけて言葉を出した。
こんな真剣にミリアリアが悩んでいるというに、トールは何も分かってない。
――私はこんなに心配してるのに!
つんとした声で「もうっ!」とミリアリアが不満な声を出すと、トールにもその思いが伝わったのか否か、少し乾いた笑いでミリアリアを見つめた。
「トールのバカ!」
「ごめんっ」
申し訳なさそうにトールは言うと、優しくミリアリアの頭を撫でた。
――ずるい。ミリアリアは頭の中で呟き、溜息を吐いた。
そんなことをされたら怒るに怒れないし、先程までの怒りはなかったことのように心を晴れさせる。彼の手はきっと魔法がかかっているのだ。
ミリアリアは身を委ねるように、トールの手へと頭を預けた。黙り込むミリアリアに、トールは優しく声をかけた。
「おれのこと、呼んだだろ。……どうした?」
不安そうに、でもどこまでも優しいトールの声にミリアリアは落ち着いた声で返した。
「心配なだけ……」
「え?」
「心配しすぎって言われても、心配する……」
俯くミリアリアの視線を守ろうとトールは陽気に「大丈夫だって」と答えるが、それでも彼女の顔は曇っている。
大丈夫――。こんな戦場の中で確かな言葉など、あって、ないようなもの。
今なら戦争ドラマで、戦場へと向かう人に約束を繋ぐシーンが理解できる。約束も何も確かでないから、きっとするのだと。
ミリアリアは心配させてはいけないと思いつつも、溢れ出る思いをポツリポツリとトールに伝える。
「何度、“大丈夫”って言われても心配になるの。……命って一つしかないから」
当たり前の言葉にトールは胸が痛んだ。
そう誰でも命は一つしかない。命が二つあるものなんかいない。これはコーディネイターもナチュラルも同じこと。
だからこそ、人はそれを守るために戦っている。
当たり前すぎて、分かり切っていることだから、ついつい忘れそうになる思い。
トールはミリアリアの肩にそっと手を回した。