ガンダムSEED・DESTINY
□Verita stellare 前編
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「シン、ちょっといいかな?」
仕事が終わるなり、キラはシンを呼びつけた。
終戦して数ヶ月。キラはザフトの軍人・隊長として、その身をここに置くようになった。
そしてシンはキラの隊へと配属が言い渡された。正直、ステラを殺した彼を許すことは出来ない。
彼はかつて、ステラが乗っていたデストロイを破壊した男。そのせいでステラはデストロイという機体と共にこの世を去った。
彼女の死が、爆発に巻き込まれ焼けてしまってのものか、それともあまりの高温で灰になってしまってのことかは分からない。
けれどもあの戦場でデストロイのパイロット・ステラは見つけられなかった。
唯一、少女の右腕と左手だけが離れたところに転がっていた。けれども、それは焼けただれていて、衣類を身につけていたのかさえも分かりはしなかった。だがきっと彼女のものであろう。
シンは哀しくおもい記憶を脳内によび起こすも、今は出すべきものではないと、ゆっくり蓋を閉めた。
そして何も無かったかのようにキラへと口を開く。
「なんですか、隊長」
呼びかけに答えると、キラは少し強ばった顔でシンとの視線をそらした。
「シンがぼくの隊配属になるとは思ってなかったから……その」
「……別に普通じゃないですか? ミネルバの艦は沈んで、艦長も死んだ。隊長だったアスランも居なくなったし。……配属先がなくなった今、新しい隊に所属するのはおかしなことではないので」
シンの言葉にキラは沈むような顔を見せる。
尖っているつもりはない。しかし、どうしてもこのような当たり口になってしまう。
分かってはいるのだ。
キラもステラを殺したくて殺したわけではない。
敵同士だったから、その敵を止めようとしただけ。そう、ただそれだけ。
誰も悪くない。それは分かっている、けれど理性と感情は必ずしも一つではない。
両方が心の中で戦って、その結果がこのような言い方になってしまっていた。
目をそらすキラに対して、シンはあえて目をそらさないように彼を見つめた。
「シンはまだその……えっと好きなの?」
「ステラのことですか?」
キラの言葉にシンは迷うことなくそう答えた。
ステラが死んで、アスランとメイリンの逃亡後、あれだけルナマリアを守ると誓いを立てていたくせに、「好き?」と聞かれるとステラの方が先に頭によぎる自分は、果たして男としてどうなのだろうか。
ふとシンはそう思うも、自らの疑問に頷くキラを見て、その思いが消えていくのを感じた。
そして口は勝手に言葉を紡ぐ。
「……嫌いになれるわけがないですよ」
嫌いなはずがない。シンは苦しそうに顔を歪めた。
懸命にシンとの出逢いを大事にしてくれたステラ。
家族を失ってから、初めてだった。あそこまで自分と出逢ったことを喜び、一番頼りのなかった時の己を、ただ純粋な瞳で信じてくれた。
だからシンも、敵味方関係なく、彼女との出逢いを大事にして、抱きしめていられたのだ。
ステラは誰よりも確かに守りたい存在で、いつか共に、平和な世界で触れ合いたいと願ったこともあった――いや、今でさえも。
そんな彼女を嫌うなんて――好きでないはずがない。
心臓を締め付ける想いに、シンはそらさないようにしていた瞳をそらした。
「……失礼します」
シンは俯いたまま、キラの前から去ろうと足を踏み出した。
キラが引き止めようと、声をかけるが、シンはそれを振り切りキラの執務室を出た。