六つ子と出逢う話A







風邪をこじらせてまさかの病院搬送された私は、点滴を打って薬を飲んでぐっすり寝て、病院まで迎えに来てくれたお母さんに連れ添ってもらいその日の夜に退院した。
病院のベッドで目を覚ました時は一瞬何がなんだかわからなかったが、徐々に先程の失態を思い出して酷い羞恥心と後悔の波が押し寄せて死にそうになった。
そんな私にお母さんは「最初から何でも1人で出来ると自惚れるな」と最もなことを説教するも、「心配したよ」と頭を撫でてくれる。
自分のことをここまで情けないと思ったのは初めてで、自分に出来ることなんてまだまだ少ないんだと理解した途端、ぽろぽろと涙が零れ落ちた。
どうしてこう、体調が悪い時ってこんなにも情緒不安定になるんだろうか。


『大丈夫だよ。どこにも行かないから』


そしてここで、先程助けてくれたピンク色のパーカーを着た彼のことを思い出した。
まだ謝罪もお礼も言っていないので、お母さんに彼の話をして所在を訊くも、どうやら彼には会っていないらしい。
暫くお母さんと彼の話をしていると看護師さんがいらっしゃったので、ピンク色の彼のことを訊いてみた。
看護師さんの話を聞くに彼は暫く病院へ居たそうだが、私の容態が落ち着いたことを聞くとそのまま名前も連絡先も告げず帰ってしまったそうだ。
聞いた途端、思わず嘘でしょと思ってしまう。
なんてこった。私は彼にきちんとした謝罪も御礼もする機会を失ってしまった。


「お大事に、とも言ってましたよ」


しかも心遣いまで頂いてしまった。
どうしよう。このままじゃ申し訳なさ過ぎて余計具合が悪くなりそうだ。
再び押し寄せてきた涙に必死に耐えていると、お母さんは一つため息を吐いた。


「同じ町内にいるかもしれないじゃない。泣くのは散々探しても見つからなかった時にしなさい」


言われて、確かにそうだと気付く。
会うことはきっと難しいだろうが、何もしていない現状で無理だと結論づけるのは余りにも稚拙だ。
お母さんの言うことは、いつも正しい。


















体調が完全に復活してからの数日間、休日を使ってピンク色の彼を探し回った。
彼が声を掛けてくれた道路、人の多い駅や商業施設、公園などにも足を運んだが...そう簡単に見つけられるはずもなく、だんだん諦めの色が強くなっていく。
名前も知らない、顔も声もおぼろげという不安定な状況で、本当に彼を見つけられるのだろうか。


「「...もうだめかも...」」


トボトボと大通りを歩きつつ思わず零れてしまった独り言が、なぜか唱和されて返ってきた。
驚いて振り返ると、赤いパーカーを着た男の人が私と同じようにびっくりしたような顔を向けている。
見覚えのあるその顔に、私はまた驚いて完全にフリーズしてしまった。


「え、今ハモった?うわ、すげー偶然!ウケるねぇ!」


びっくりしたまま固まってる私をおいて、赤色の彼は軽快に笑う。
すごい偶然。まさにそうだった。
...まさか、本当に見つけられるなんて!


「あ、あの!ち、違ったらすみません!先日、具合の悪いところを助けて頂いた者なんですが...心当たりはありますか...?」


記憶を辿って多分この人だと思うのだけど、高熱でぐらぐらしていた頭での記憶だった為、確証を得られなかった私は恐る恐る彼に尋ねる形をとった。


「へ?」


私の突然の質問に、赤色の彼はポカンとした顔を向ける。
こ、この反応はどうなんだろう...?いきなり言われてびっくりしているのか、それとも少し日にちが経ってるから忘れてしまっただけなのか...はたまた、全くの別人なのか。
どきどきしながら彼の反応を窺っていると、彼は少し考える素振りを見せてから...パッと顔を明るくさせた。


「ああ!あの時の女の子か!もう具合は大丈夫なの?よかったねぇ」


返ってきた言葉に、ブワッと安堵感が広がる。
よかった!人違いじゃなくて本当によかった!


「は、はい!おかげさまで快復しました!本当にありがとうございました!」

「そっかそっか〜」

「あの日は御礼も謝罪もできずに申し訳ありませんでした...!あの、よかったらこれ、貰って頂けませんか...?」


ペコペコと頭を下げながら、もし見つけられた時のために用意していた菓子折りを差し出す。


「うわ、これめちゃめちゃいいとこのお菓子じゃん!え、本当に貰っちゃっていいの?」

「差し支えなければ貰ってください...!本当に、その、とんでもなくご迷惑お掛けしてしまったので...!」


謝り倒す私に赤色の彼は「そんな気にしなくていいのに」と笑い、「それじゃあお言葉に甘えて」と菓子折りを受け取ってくれた。
無事にお詫びの品を渡せたことにほっとしていると、今度は彼の方からもちょっと訊きたいことがあると言われ、なんだろうと首を傾げる。


「その時さ、俺が何色の服着てたかとか覚えてる?」

「え?...と...確か...ピンク色、だったかと思います...」


あまりにも素っ頓狂な質問に思わず聞き返してしまったが、寸でのところで何とか彼の質問に答える。
なんでそんなことを訊くんだろう...?と不思議に思っていると、赤色の彼は妙に納得したような色を浮かべてうんうんと何度か頷いた。
そして、人懐っこそうな笑顔を浮かべて私の方を見る。


「俺は松野おそ松。わざわざ探し回ってくれたみたいだし、折角だから連絡先交換しない?」

「え?...あ、はい」


赤色の彼...松野さんの笑顔につられて、名前と連絡先をすっかり教えてしまった。
松野さんの方は携帯を家に置いてきてしまったらしく、後で連絡するから待っててとこれまた可愛らしい笑顔で言われる。


「じゃあ、またな〜!お大事に〜!」


最後にそんな挨拶をして、松野さんは楽しそうにスキップして帰っていった。
何となく、最初に会った時のイメージとちょっと違う様な気がするのは、私が高熱に苛まれていたからだろうか...?















記憶の中の間違え探し
(赤色とピンク色、似てるけど違う色。)


お粗末様でした。



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