ぎゃくせつ

□35、独楽
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ハロウィーンの夜が明けてすぐ、俺は真っ先にシャワーを浴びた。
シリウスを追いかけて大量にかいた汗を流すためだ。
匂いがつくからボディソープを使ってはいけない。

その後、すぐにタイム・ターナーを回した。
上手くドラコたちと合流してしまえば、もう考えることはない。

それから数日して、俺はスネイプ教授に呼び出された。
罰則などの思い当たる節はない。
ただ、睡眠薬もなくなりかけていたのでちょうどよかった。


「シリウス・ブラックについて忠告がある」


俺に椅子を勧め、教授はそう切り出した。
片手間に俺のピルケースの中身を見て薬の数を確かめている。

艶のあるそのケースは、ハーマイオニーから貰った。
デザインは然ることながら、とても便利で気に入ってる。
やはり彼女はセンスがいい。


「ブラックって、ハロウィーンの夜にグリフィンドール寮を襲撃したっていう?」
「未遂だ。どこでそんな噂話を聞いた」
「廊下や教室の隅で固まってはみんな同じこと言ってます」


尾ひれ背びれがついた結果だ。
花の咲く灌木に変身できるとも聞いた。


「灌木か、さぞかし可愛らしい花を咲かすのだろうな。ブラックも哀れだ」


そう言いつつ、スネイプ教授の口角はつりあがっていた。
年齢的に考えて同期なのだろうが、確執でもあったのだろうか。
とても楽しそうだ。


「哀れといえば」
「どうかしたか。我輩は話を先に進めたいのだが」
「たぶん先生の話と同じ方向性です」


ピルケースがぱちんと閉じられた。
補充された睡眠薬がじゃらじゃらと音をたてるのが聞こえた。


「俺とハリーがブラックに狙われているとか」


実際は誰にも教えられていないが、ドラコ経由で知ったと解釈されるだろう。
ルシウスさんは魔法省によく出入りしているため問題ない。
こちらも年齢を考えれば、ちょうど教授とは先輩と後輩の間柄になる。

予想通り、教授は一瞬渋い表情をしただけで大きな反応は見せなかった。


「知っていたのか。何故言わなかった」
「俺は校外に出る機会もないので安心していました」


唇を尖らせて言った。
受け取ったピルケースをポケットにしまう。

クィディッチはしていない、ホグズミードにも行かない。
ハロウィーンの時のようなことが起こらない限り、みんなシーカーであるハリーの身を案じる。
まだ校内にシリウス・ブラックがいると誰が想像するだろう。

ふと、今も隠し部屋にいる彼を思い出した。
目的を果たすまで死ぬわけにはいかないと、持ってきた食べ物はちゃんと食べている。

そういえば動機を訊いていなかった、気が向けば訊いてみよう。


「危険がなければそれでいい。だが気は抜くんじゃない」
「俺は弁えてる方ですよ」
「どの口が……」


確かに説得力がない。
一昨年も去年も、数奇なことに俺は事件の首謀者に掴まっている。
去年なんて目も当てられない事態になった。

もう、そうほいほいと巻き込まれるわけにはいかないだろう。
特に今年は誘拐されればシリウスの命に関わる。


「……得体の知れないものは、信用するな」


とても身に沁みる言葉だ。


(無関心を装った自我)

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