ぎゃくせつ

□33、折り紙
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逆転時計を使って数占いの授業に行く途中、スネイプ教授と鉢合わせてしまった。
最悪だが、この場にハーマイオニーがいないだけましなのだろう。


「こんにちは、先生」
「もう夕方になっているぞ。ポッター」


前髪の隙間からスネイプ教授を見た。
相変わらず頭のてっぺんから爪先まで全身真っ黒で、蝙蝠のようだ。
複雑に螺旋した器具を両腕に抱えている。

その器具を魔法で浮かせ、教授は一歩近づいた。
薬品で荒れた手が俺の前髪を横に分ける。


「前髪が伸び過ぎだ……切れ」
「いやですよ」
「以前つけていたヘアピンはどうした」
「今朝寝ぼけてて、壊してしまいました」


これでもなんとかした方だ。
時間を巻き戻した影響で体の成長が早いのか。
心なしか目線も高くなった気がする。


「なにか用でもあるんでしょう?」
「何故そう思う、自意識過剰な奴め」
「いつもの先生なら挨拶も無視する筈ですから」
「……ふん」


するりと、前髪を耳にかけられた。
視界が半分開ける。

それがくすぐったくて、ふっと口元が緩んだ。
途端、スネイプ教授の動きが止まる。
リリーと同じ笑みになっていたのだろうか。


「やつれているな。食事や睡眠はちゃんと摂っているか」
「ええ、まあ……はい」
「なんだその返事は」
「疚しいところがあるから、ですねー」
「不摂生が過ぎるようなら逆転時計を没収するぞ」


げ、と喉の奥から声が漏れた。
仏頂面の教授を上目遣いにうかがう。


「寝てはいるんです。食欲がないだけで」
「理由はわかっているか」
「疲労?」


どうやら俺の心身はこれ以上の負担を望んでいないらしい。
たまに、勉強も努力も全て放り投げてしまいたくなる。
選択をしたのは他の誰でもない俺なのだから、これは我が侭というものだ。

我が侭も弱音も許さない。
帝王と和解するきっかけを完全に失くしてしまう。


「夕食も食べられないようだったら我輩の研究室に来い」
「……今日はお優しいんですね」


耳にかけられた髪に触れながら、顔を綻ばせた。
再びスネイプ教授の動きが静止する。
表情もどこかぎこちない。


「俺、笑わない方がいいですか」


リリーに似た顔を露出させているのがいけないのだろうか。
前髪を元に戻して撫で付けた。


「いや……むしろ、笑ってくれ」


(寂しがり屋の協調)

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