ぎゃくせつ

□29、カルタ
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『腹は空いてないか』


帝王が指さした先には古びたパブがあった。
昼から何も食べていないため、とても助かる。

不安なのは、この陰気な雰囲気の村にあるパブのメニューだ。
フィッシュ&チップスくらいはどこの店にもあるが、酒類が基本なため手抜きなことが多い。
ロンドンのパブのようにカレーがあればいいのだが。

“吊された男”という名のパブは意外と賑わっていた。
時間帯が時間帯なため、仕事後の一服といった様子だ。


「おいっ、あの顔」
「じーさん起きろ、亡霊だ」


店内に入った途端、一度全員が静まり返った。
そしてややもせずひそひそを話し声が聞こえてくる。
マグルのファッションに詳しい俺がコーディネートしたため、服装は問題ないはずだ。

老人を中心に広がるざわめきの輪に眉を寄せる。


『……間違いだったな、他に行くぞ』


帝王は俺の腕を掴んでパブを後にした。
説明もされないまま、木の陰で姿くらましをしてどこかに飛ぶ。
現れた村はリトル・ハングルトンとは違い賑やかだった。


『隣村のグレート・ハングルトンだ』


戸惑っている俺を見て帝王が補足した。
棘が目立つ、苛々とした口調だ。

ひとまず腰を落ち着けようと、俺たちは近くのレストランに入った。
隅のボックス席に座り、財布の中身を確認してからメニュー表を見る。
ロンドンほど物価は高くないようで、少し悩んでからサンドウィッチを選んだ。

何か考え事をしているらしい帝王は紅茶を注文してから全く口を開かない。
頬杖をつく姿は様になっているが、話しかける気にはなれなかった。


「お待たせしましたぁ」


間延びした声のウェイトレスがサンドウィッチと紅茶を運んできた。
帝王の顔を見た途端、彼女は綺麗に作り笑う。


「帝王、あの……」
「先程のことか」
「はい、聞きたいです」


深い溜め息の音がした。
ウェイトレスが運んできたサンドウィッチをかじる。
飲み放題の温い水を啜った。


『俺様の父親があの村に住んでいた』
「……帝王の、父親」
『よほど似ているのだな、老いた者の反応を見ると』
「お父さんは今どちらに?」


その問いに、闇の帝王はにやっと笑った。


『殺した』


なるほど、死んだ人間が化けて出たと思ったのか。

リドル氏の死因であろう死の呪文はマグル界では変死だ。
魔法省が放置していたなら、事件が起きた世代にその話が残っているかもしれない。


『早く食べてしまえ、戻るぞ』
「え、もう少し待ってください!」


やっぱり戻るのか、リトル・ハングルトン。
あそこは嫌いだ。


(友達が懐かしい)

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