ぎゃくせつ

□28、組み木
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退院できたのは夏休みが始まる数日前だった。
家族の代わりに、スネイプ教授が右腕を吊った俺を迎えに来てくれた。

両親がいないためだろう。
あのダーズリー夫婦が魔法界まで来てくれるわけがない。
弟は今頃授業中だ。

だから、赤の他人でも寮監。


「仕度はできているか」
「はい、昨日のうちにまとめておきました」


入院中は病院着しか着なかったし、娯楽は見舞い品の勉強道具だけだ。
どうして俺の友人は一人で遊べる物をくれないのだろう。


「荷物を持とう」
「え。……大丈夫です」
「そうか」


見た目どおり、ボディバッグに少ししか入っていない。
スペースが三分の一ほど余っている。
大した重さではない。


「……先生」
「どうかしたか」


やっぱりそうだ。
教授の声には聞き覚えがある。

確信のなかった憶測に真実味が増す。
だからどうしようという考えはないが、確かめておきたかった。
俺が起きていたと知られないよう、さり気なく。

これは閉心術で隠した俺だけの思考だ。
帝王にも分からない。


「スネイプ先生、ありがとうございます」


ふんわりと、女性的に笑った。
いつか写真で見た母親のように笑う。
彼女とよく似た顔で、よく似た表情で笑う。

俺の憶測が本当に正しければ最低な行為でしかない。
それでも確かめずにはいられなかった。


「腹に一物抱えた小僧に微笑みかけられることほど寒気がするものはない」
「……酷いですね」


教授は鬱陶しそうな顔で一瞥しただけだった。
さりげなく俺が持っていたボディバッグを奪い、正面玄関へと向かう。
置いて行かれそうな速さだったため、すぐに追いかけた。

――これが演技なら、違和感がないほど様になっている。


(アトリ科の飼い鳥)

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