ぎゃくせつ

□26、手品
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「うっ……」


体中に痛みを感じて俺の意識は浮上した。
頭の中が厭に混濁していて、夢と現実の区別がつかない。
どちらか分からないが、先程までドラコと勉強していた気がする。

ゆっくりと首だけで辺りを見回す。
起き上がろうにも、痛みに邪魔されて思うように動けない。

白く無機質な天井と、カーテン、シーツが目に入る。
静か過ぎるこの部屋の窓は何の飾り気もないシンプルな造りだ。
淡く色付いた壁を眼でなぞるも、俺以外の人間はいなかった。

――此処、どこ。

状況の把握ができない。
どうやら、白い部屋は白い部屋でも医務室ではないようだ。
ホグワーツの窓はどこも手が込んでいるから。

とりあえず喉が渇いた。
水を貰おうと、無理に体を起こす。

すぐに、肩を押されてベッドに逆戻りしてしまった。


『まだ寝ていろ』


頭の中ではなく、耳に響く帝王の声。
成人男性にしてはやけに高い声。
それがとても優しく聞こえた。


「帝王……」
『痛かっただろう、怖かっただろう』


するり、と俺の頬を撫でる。
優しい手つきだと思った。


『安心しろ、もう危険は――』
「どうして」
『……』
「どうして、そんなに優しいんですか」


手が、唇をなぞってから離れた。


「貴方は自分のしたことを後悔する人じゃない」


例えそれが過去の自分であろうと。
絶対の自信を持っているこの人は振り向かない。
反省はしても、後悔はしない。


『いや、悔いている。憤っているとも』


薄っぺらい台詞だ。
それを引き剥がすように次の言葉を紡いだ。


「嘘だ。ありえない」
『……すっかり人間不信だな』
「いえ、貴方限定で疑い深くなっただけですよ」
『そうか?疑いすぎて本質を見失っているぞ』
「はははっ。問題でも?」
『あるな』


冷静な切り返しをされて押し黙った。
考えずに話をするから、すぐに詰んでしまう。
屁理屈も矛盾も何もない。


「……」
『なんて可哀相な子供だ』
「っ!」
『闇の帝王に魅入られたばかりにあらゆるものを失って!』
「それは、俺が……」
『ブルー』


あれ、と疑問。
やけに真面目な帝王の顔と、顎に添えられた手に違和感を覚えた。

――記憶を、消すつもりだ。


『本当に心配した、ブルー』


(言い逃げ)

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