ぎゃくせつ

□25、鬼ごっこ
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どうしよう。
今更になって後悔した。

秘密の部屋の場所や怪物の正体について、先生たちに報告しなかったこと。
ロックハートなんかに少しでも希望を持ったこと。
そして何より、リドルを信用したこと。

全て後悔している。
あの優れた兄には相談すべきだった。

スリザリンの継承者を追って、僕はロン(と、ロックハート)と一緒に秘密の部屋に来た。
正しく言えばロンは部屋の手前にある通路までだ。
途中で、通路の天井が落盤して道が塞がった。

ロックハートの所為だ。
あんな狭い所で呪文を使うから……!

つまり、落盤してきた瓦礫によってロンとは引き離された。
けれど僕に諦めるという選択肢は用意されていない。
ここで諦めたら親友の妹が死んでしまう。

でも……やっぱり……せめて、兄さんが居てくれたら……。
杖を固く握り締め、最後の扉を開く。


「っ!?」


扉の向こう――広間には2つの人影が倒れていた。
綺麗な長いレッドシュとくせっ毛の黒髪が床に散らばっている。
ジニー・ウィーズリーと、兄さんだった。

あの時、僕は何を考えていたんだろう。
杖を放り出して、一番顔色の悪そうなジニーに駆け寄った。


『スリザリンよ。ホグワーツ四強の中で最強の者よ。我に話したまえ』


パーセルタングだ、リドルが話している。
この秘密の部屋でその蛇語を使う理由なんてひとつだけ。
毒蛇の王――バジリスクがくる。

あの時、僕が杖を手放さなければこうはならなかっただろう。
僕に兄さんやダンブルドア先生のような知恵があれば……。

ジニーを腕に抱き、冷たい壁にぶつかるまで後退りした。
死ぬことには恐怖を感じないが、ジニーや兄さんが死ぬことは怖い。
目を堅く閉じると肩に留まっていたフォークスが飛び立った。

思わず情けない事を言ってしまいそうになり口を噤んだ。
頑張らなきゃ、兄さんみたいに優れた子になりたい。


「あいつを殺せ」


兄さんなら逃げない。
組分け帽子から出てきた剣を、今度こそ両手でしっかりと握り締める。
襲ってくるバジリスクに切っ先を向けた。

全体重を乗せて、牙の並ぶ口内に突き刺す。
引き抜こうとする毒蛇を追うようにして更に深く深くと迫る。
比例してバジリスクの牙も深く深く刺さってきた。

剣の鍔まで刺して、柄から手を離した。

バジリスクは右に左に揺れながら床に倒れた。
ひくひくと痙攣する蛇を見て、頭がサッと冴える。

僕が、ひとりで、この毒蛇を倒した……!


(憧憬)

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