ぎゃくせつ

□23、神経衰弱
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図書室でレポートに励んでいた平和な午後。
その静けさはマクゴナガル先生の拡大された声によって破られた。
生徒は速やかに寮へ戻れ、なんて。

何が起こったかの理由は大方察しがつく。
また誰かが石にされたのだろう。

そうとなれば、疑心を抱かれる我ら蛇の寮は早々に退散しよう。
要らぬ噂などが広まっては俺の今後にも良くない。
一先ず、本を探しに行ったドラコを探さそう。

魔法薬関連の本が詰まった棚の隙間をすいすいと縫っていく。
だが、変身術の本棚に差し掛かった途端、俺は転倒した。

誰かが鞄を置き忘れたのだろうか。
それとも下級生向けの脚立が倒れていたのか。
擦り剥いた膝を抱え、つまずく要因となったものを見て……

息を呑んだ。


「ド、ラコ……」


酸素は肺に着く前に喉の手前で止まり吐き出される。
ヒュウッと空気の抜ける音がした。

俺が足を引っ掛けた、荷物だと思っていたものはドラコだった。
後退さったままの体勢で恐怖を顔に貼りつけ石になっている。
わけの分からない感情がこみ上げて……。

許せない。
どうしてドラコがこんなことにっ……。

守れる筈だったのに。
情けない。
馬鹿馬鹿しい。


「友達、ね」


石化したドラコを司書に任せ、俺は寮に向かった。
もしかしたら帝王が帰ってるかもしれない。
そう思うと自然と早足になっていた。

寮へ向かう途中の道には人っ子ひとり見当たらない。
おそらく談話室で縮こまってるのだろう。

一階への階段は三段飛ばしで降りた。
擦り剥いた脚がズキズキと痛むが関心は向かない。
額どころか心臓からも冷や汗が流れているようだった。

あと少しでスリザリン寮。
安心しかけたのも束の間、角から長身の生徒が現れる。

慌てて避けようとして後ろに仰け反った。
そんな努力も水泡に帰すように、尻餅をつく。
現れた生徒の顔が見えた。


「リドル先輩!」


途端にほっと肩の力が抜けた。
頬の筋肉が緩む。

不安だったんです、と言えばその手に縋れるだろうか。
脚が痛いです腰が抜けました、と嘯けば甘えてもいいかもしれない。
抱きつくにはどう謳えばいいのだろう。

帝王の面影がダブる。
それが妙に安心できて……この人の温もりが恋しい。

愛しい。


(悲喜劇)

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