ぎゃくせつ

□20、手遊び
1ページ/3ページ



十二月に入り、クリスマス休暇が訪れた。
安堵に胸を撫で下ろし、諸手を挙げて喜ぶ者は多いのだろう。
言うまでもなく大勢の生徒が学校から離れようとする。

我々は純血だと胸を張るスリザリン生もほとんどが帰省していた。
がらんとしてドラコたち以外誰もいない談話室は心地好い。


『情けないことだ』


頭が痛いと言わんばかりに帝王は首を振る。
否、実際に痛いのだろう。

彼と同じく俺も頭痛がする。
秘密の部屋の継承者はマグル生まれを襲うと言っているのだ。
何故、そうでない純血のスリザリン生が継承者を恐れる?


『少なくとも、五十年前はここまで腑抜けた寮ではなかった』
あのアブラクサスやオリオンもその年代でしたよね。確か。
『……いったいどこから仕入れた情報だ』
卒業名簿から仕入れた情報です。


つい二、三日前に読んだ名簿を思い出す。
過去百年のものを手繰ったが、あれ程印象強いものは他にない。

帝王も在籍していた五十年前。
なにがあったのか、スリザリン生の集合写真の一部が焼かれていたのだ。
個別の写真も何枚か抜き取られていた。

あんな不完全な名簿、見たこともない。
悪戯やファンの仕業にしては些か悪質過ぎる。

――それとも。

興味本位の憶測を打ち消し、取り皿に盛った昼食を一気に平らげた。
そして、トーストを二枚ほど手にとって大広間を後にする。
向かう先は図書室だ。

マダム・ピンスしかいない図書室は談話室の次に心地好い。
彼女の死角になる席なら、帝王が俺の右目から出て来ることもできる。

さっそく本棚から魔法界の歴史書を選び、件の席に座った。
それと同時に米神をおさえた帝王が実体化する。
やはりストレスと疲労が原因だろうか。


「……大丈夫、ですか?」


労わりの言葉と共に二枚のトーストを差し出す。
相変わらず無言だったが、彼はどちらも受け取ってくれた。


「昨日の夜もどこかに行ってましたよね。なにか分かりましたか?」
『いや……せめて開心術が使えればいいのだが』


そう言って、帝王はトーストを齧る。

魔力が足りない所為で帝王は俺以外に開心術を使えない。
俺に使えるのも、俺が彼の宿り主だからだ。
意味がない。

一応ユニコーンの血は飲んでいるが。
帝王が実体化する所為ですぐに底を尽いてしまう。

深い深い溜め息。
吐き出したのはもちろん俺。
頭が締め付けられるような鈍痛を訴える。

目が疲れたのかもしれないと、背凭れに身を任せ目を閉じた。
瞼の裏に廻る回想は然程懐かしむべきでもない記憶。


「あぁぁ……」


二人の犠牲者を出した“件の事件”。
ゴーストであるニコラスが石化したことにより、学校は混乱に包まれた。
昼も夜も、廊下の端に溜まっては継承者の話ばかり。

どいつもこいつも馬鹿らしい。
愚者同士が正体不明の人物を幾ら探ろうとも無駄だ。

何故貴重な時間を無駄にする?
勉学に励めば期末テスト前に顔を青くする必要もないだろうに。
そういう意味では、誰の心情も理解できない。

恋だ青春だ噂だ悪戯だ。
いったい、どれが、いつ、役に立つ?全て無駄だ。

無駄。


『ブルー』
「はい?」
『暗くなってきた』


ぽつりと呟いて帝王は右目に還った。
その意に従うため、今日はもう部屋に帰って休むことにする。
開いたままだった本を棚に戻し、図書室を出た。

大理石の床を見つめて歩き玄関ホールまで差し掛かった頃。
ふと、ホールの物置きから何か音が聞こえた。


「なんでしょう」
『放っておけ、愚かな生徒の戯れだろう』


物置きのノブを回しかけた腕を止めた。
微かに人間の気配が洩れるそこを無視することには気が引ける。
けど、帝王に逆らってまで確かめる意味はない。

少しの思案もなく、俺はそこを素通りした。


(秘密のポリジュース薬)

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ