ぎゃくせつ

□19、オセロ
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決闘クラブの翌日は夜来の雪が吹雪に変わっていた。
医務室の前に書いた血文字が問題となり、今日の授業は休講となっている。
それを活かして、帝王は継承者の手懸りを求めて教室を漁りに出かけた。


「……はぁ」


生徒たちの間では継承者が犠牲者の息の根を止めに来たと噂されてる。
若干の後悔と罪悪感を感じつつ、その実俺は結構楽しんでいた。

次は誰が襲われるのかと話す生徒も教師も馬鹿馬鹿しい。
あんなもの、継承者でもなんでもない悪戯なのに。
無表情を取り繕う事はこんなに難しかったか?


「ブルー」
「……セド?」
「継承者がいるかもしれないのに、こんなところで勉強か?」


図書室で本を読んでいたときだ。
箒を担いだセドに呼ばれた。

彼はクィディッチのユニフォーム姿で、泥だらけ。
休講措置がとられたのに呑気にも練習とは。
俺のことを言えた義理じゃない。

と、セドが俺の手に視線を移した。
昨日壁を叩いた所為でボロボロになったそれには、包帯が巻かれている。


「それ……どうしたの」
「なんでもない」
「いや……それ、すごく……あー……辛そう、だよ?」


色々と言葉を選んでくれたらしい。
だが残念、地雷だ。

相手の心情を察することのできるセドでも俺の事は分からない。
それに、辛いのは手の傷ではなくメンタル面だ。
自分が普通ではない事くらい分かってる。

俺はおかしい。
おそらく、他人から気味悪がられるくらいには。

故に隠さなくてはならない。


「大丈夫、少し火傷しただけ。明日には痕も残らないだろうし」
「本当?よかった」
「それで……用は?」
「ああ、そうだったね。ハリーが探してたよ、今大丈夫かな」


ここで忙しいと伝言を頼んでいれば良かった。
でなければ、弟の人探しなんて手伝うハメにならずにすんだのに。

ハリーは図書室の入り口で待っていた。
つい昨日パーセルタングを話したとは思えない、生き生きとした顔で。
自分の立場を認識していたら、そんな顔は到底できない。

蛇語、血文字……そして蛇を唆すようなあの雰囲気。
誰もがハリーを継承者だと思っただろう。

だからひとりで迂闊に出歩くなんて愚の骨頂。
それも、身の潔白を証明したいだなんてくだらない理由で。
次に犠牲者がでた時、真っ先に疑われる恐れがある。


「それで、誰を探してるの?」
「ジャスティン・フレッチリーだよ、知ってる?」
「ああ……昨日の」


蛇に襲われかけた男子生徒か。
それなら尚更、ひとりで出歩くべきではない。

できれば俺は疑われたくないな。
そう思いながら、人がいる廊下を選び進んでいく。
休講となっても生徒が外にいるのは、外出を禁じなかった教師の所為だ。

けど、廊下にマグル生まれの姿は見られない。

無駄骨だ。
昨日の血文字でマグル生まれは全員自室に閉じこもってる。
俺は五十年前のことや秘密の部屋について調べたいのに。


「ぁ……兄さん、アレっ……」


いつの間にか人気のないところに出ていたらしい。
辺りには物音ひとつ、蜘蛛の気配さえない。


「に、兄さん!」


妙に怯えた様子のハリーが俺のローブを引いた。
先程からそうされていた気もするが、所詮その程度の認識。
面倒臭さを抑え、何事かと愚弟が指差す方を見て……眉根を寄せた。

途端、気分が悪くなる。


「これは……」


グリフィンドール寮のゴーストと、今まさに探していたジャスティンだ。
どちらも恐怖を顔に張り付けたような表情で石化してる。
……ああ、秘密の部屋に居る怪物の仕業か。

それにしても、
まさかゴーストまで石になるなんて。

もしかして……帝王も危ない?
例え本人がなんて言おうと、彼も立派なゴーストの端くれだ。
否、それより人間に近い。


「兄さん、どうしよう」


五月蠅い。
お前の声も、この石化で生じた騒ぎの輪も、教師の怒声も。

手、放してくださいよ、マクゴナガル先生……。
俺は今帝王の心配だけをしていたいんだ。
何故かは……知らないけど。


(無意識下の恋)

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