ぎゃくせつ

□18、水風船
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ミセス・ノリスが何者かの手によって石にされた。
あの夜の噂は形を変えつつも、確かにホグワーツ校内を徘徊している。

生徒たちは噂をする度に肩を震わせた。
特にマグル生まれの生徒たちの怯えようは尋常じゃない。
事件現場にマグル生まれを脅すような怪文章が残されていた為……らしい。

帝王の話は本当だった。
日記に封じ込められていた記憶はマグル生まれを狙っている。

まるで、五十年前の再現のようだ。
朝食をとっているときに帝王がそう呟いていたのを俺は知ってる。
最初に石になったのは人間ではなく、あの猫だったけれど。

不気味な雰囲気に包まれたホグワーツ。
それを意に介さないほど、俺はある男を気にかけていた。

ミセス・ノリスの飼い主、アーガス・フィルチだ。
彼は三階の女子トイレの前をなかなか離れようとしない。
まるで犯人が現場に戻ってくると信じているかのようで、哀れ過ぎる。

それでも時は過ぎるもので、秋は呆気なく終わった。
いよいよクィディッチ・シーズンに突入だ。

明日の授業の予習復習、継承者探し、リドル先輩との勉強会。
そんなハードスケジュールにクィディッチの練習まで加わるなんて……。
正直、辟易とした。

思わず文句が口を衝いて出そうになる。
が、今の状況を思い出してすぐに口を噤んだ。


『避けろ、後ろからブラッジャーが来る』


状況。
今はクィディッチの試合の真っ最中だ。
少し上に飛んでから急降下し、つけてくるブラッジャーを撒いた。

何故か今日はブラッジャーの調子がおかしい。
考え事をしている暇なんてない。

ブラッジャーはハリーと俺をひたすら追いかけてくる。
癪に障るが、幸い我らがスリザリン側のシーカーには見向きもしない。
その御蔭でまだスニッチは取られてない。

学校用といえども、競技の球を魔女魔法使いがどうこうできるものだろうか。
一年前に俺が使った闇の魔術と似ている。

ろくにクアッフルもとれないまま時間だけが過ぎていく。
だが、ハリーならブラッジャーが付いていてもスニッチは取れるだろう。
あの運動神経と箒乗りの才能だ。

ここで百五十点以上得点しておかなければならない。
俺はシルバーアローを握り直し、旋回した。

と、その時。
ハリーを追っていたブラッジャーが俺に向かって飛んできた。
すぐに左腕で頭を庇う。


「ぐっ……」


音が鼓膜を震わせる。
痛みが体を侵食する。

……この分だと、左腕の治療は魔法薬を要するだろう。
だらりと宙に投げ出された腕を見てそう思った。
痛みはもう麻痺した。


「くそっ」
『喋るな、舌を噛むぞ』


スニッチをとり、大勢の生徒に囲まれたハリーをねめつける。
あの愚弟も腕をやられていたが……ここまで差があるとでもいうのか。

腹立たしい。
胃の中で黒くもやもやしたものが渦巻いている。
酷く、気分が悪い。


『いつまで箒に乗っているつもりだ。降りろ、ブルー』


帝王に宥められて箒から下りると、スニッチを逃したドラコを叱るフリントがいた。
無言で彼らに近付く。

内容を聞いてみれば、フリントのそれは叱るというよりも怒鳴るに近い。
自分の失敗やグリフィンドールに対する愚痴まで吐いているのだ。
堪らず俺は彼の胸倉を掴み、我が友から引き離した。


「お前だって何もできなかっただろ!!」
「ブルー……?」
「行くぞドラコ!」


トレーニングメニューを考え直さなければならない。
来年だ、来年こそ俺が、俺の育てたドラコで、俺が、ハリーに勝つ。
ぶらりと垂れ下がる腕を見てそう誓った。


(兄は兄にして弟にあらず)

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