ぎゃくせつ

□15、御飯事
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俺が目を覚ましたのは、まだ鳥も起きていない時間だった。
スリザリン寮のベッドから離れるのも惜しいという時間。
ドラコやクラッブ、ゴイルも寝ている。

せっかく早く起きたのだから、今日ある授業の予習でもしよう。
深緑のカーテンがかかった天蓋を眺めながらそう思った。

寝巻きから制服に着替え、トランクの中から教科書を引っ張り出す。
見てるだけでも気分が暗くなる表紙のそれは魔法薬学。
俺が毛嫌いする教科。

授業内容が不満なのではない。
大鍋を引っ掻きまわして不思議な薬を作るのは好きだ。

ただ、魔法薬学を担当する教師が……。
その教師はセブルス・スネイプといい、スリザリン贔屓の寮監だ。
陰険で融通がきかず、ポッターの血筋を目の敵にしている。

御蔭であの教科だけ、去年の試験で満足のいく点を取れなかった。
筆記も実技も自信があっただけに残念だ。

スネイプといえば。
愚弟――もといハリーはどうしたのだろうか。
昨日の新入生歓迎会で姿を見かけなかった。

まあいい。もし噂どおり空飛ぶ車に乗って来たとしても俺に実害はない。
優等生の優しい兄を演じるうえでは、そわそわしている方が好都合。


「うー……」


……もうこんな時間か。
呻くような声を漏らしてドラコが起き出した。
そろそろクラッブたちも起こしてやろう。


『それは優しさ故か?』


ついさっき起きたばかりの帝王が問う。
寝起き独特の掠れた声が脳内で反響して消えた。

途端、顔に熱が集まる。
胸の痛みの代わりに心臓が激しく脈打った。
いったいどうしたと云うのだろう。


そんなわけないじゃないですか。


平常心を装って言葉を返す。
習得したばかりの閉心術を使うのも忘れない。


『ああ、貴様に優しさなど似合わぬからな。それを聞いて安心した』


似合わない。
表層意識で受け止めた帝王の言葉は、胸に微かな痛みを与える。
本当に、俺の体はどうなっているのだろう。

窓の向こう、重そうな雨雲を見つめながら溜め息を吐いた。
指輪をはめた方の手で金装飾のロケットを握り締める。


(波乱の序曲)

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