ぎゃくせつ

□14、電車ごっこ
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清々しく晴れた今日。
それは生徒たちがホグワーツに帰る日だ。
キングズ・クロス駅は新入生やら在校生やらでごった返している。

帝王の気分は下降する一方で、右目の鈍痛が絶える気配はない。
この程度はまだ涼しい顔をしていられるから良いが。

俺とドラコはマルフォイ夫妻に別れを告げ、汽車に乗り込んだ。
今回は去年の帰りのようにコンパートメントを探さなくてもいい。
カリスマ性溢れる先輩が確保してくれてるだろうから。


「ブルー!こっちだよ」


あるコンパートメントの前を通り過ぎようとしたとき。
両開きの扉が勢いよく開き、黒髪の男子生徒が端正な顔を覗かせた。

セドリック・ディゴリーだ。

驚いたドラコを見、俺は内心で笑む。
スクイブの俺がこんな人気者と知り合いだと思わなかっただろう。
確かに彼は見た目も頭も運動神経も神がかっている。


「久しぶり、セド」
「ああ、ずっと文通だけだったから。会いたかったよ」
「俺も」
「今更だけど、ブルーって筆圧強いね。読みにくいとこ多いよ」
「……改善する」


スポーツバッグなどをコンパートメント内に運びながら談笑する。
ついでにドラコの荷物も運んでやった。


「座りなよ」
「お言葉に甘えて」
「ドラコも」
「あ、ああ……」


セドが親しげに話しかけているということは、やはり知り合いか。
そういえば彼らの母親は同級生だったと聞いたことがある。
ある意味、凄い。

ガタンッと汽車が揺れた。
バランスを崩した俺をドラコが受け止める。


「大丈夫かい?」
「笑い事じゃないぞ」
「大丈夫、ドラコ。汽車が出発したみたいだ」


鮮やか過ぎる紅色の蒸気機関車はぐんぐんと速度を上げる。
カーブを曲がり、ついにホームが見えなくなった。
去年とは違う寂しい目で風景を眺める。

ロクな思い出もないクセに寂しいなんて、可笑しい。
ふっと弧を描きそうになった唇を引き締め直した。

夏休みが終わり、俺も少しは成長している。
課題として訓練していた表情のコントロールと閉心術を修得した。
まだ都合の良いことを夢想しているが、流されたりしない。

どうせ、だ。
このまま帝王に従っていればそんな考えはなくなる。

闇とはそれを思わせるほど深いものだ。
深く、近付いたものを無差別に吸い込んでいく。
だから闇の塊のような帝王の許で彼に縋ってるのかもしれない。


(還りたくて)

 

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