ぎゃくせつ

□12、缶蹴り
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ホグワーツに入学して最初の夏休み。
俺はトランクと随分と軽くなったバッグを抱えてホームに降りた。
不機嫌そうな顔で汽車に揺られていたドラコも続く。

家族で賑わっている九と四分の三番線は想像以上に不愉快だ。
早く此処から立ち去りたい一心でマルフォイ夫妻を探す。


『ブルー、よく聞け』
「はい。……あっ」


ナチュナルに返事を声に出してしまった。
慌てて周りを見るが、それに気付いた奴はいない。
この煩わしい騒音のためか。

とりあえず、挨拶してきた女子に返事を返す。
再び話しかけられるのを阻止するためトイレに逃げ込んだ。


『いい加減に慣れろ、貴様は仮にも魔法使いだろう』
「すみません……」


針で刺すような痛みが右目を攻撃する。
文句と言えばもっと酷くされると知っている為、ここは耐えるしかない。
左目に涙が滲んだ。

直接寄生されるようになってからというもの、お仕置きがキツイ。
今までよりもダイレクトに伝わってくる。


それで、話の内容は?
『ルシウスの忠誠心を試したい、鎌を掛けろ』
今更?
『この“状況”になったからだ』


闇の帝王はまたしても俺の弟に退けられました。
そんな皮肉めいた調子で、ルシウスさんに向けるべき台詞を浮かべる。
単語を選択し、文にした。


『そう、癪であることに違いないが、それでいい』


頷いて、出来る限りの無表情を作った。
鏡の前で少し調節してからトイレを出る。

ドラコたちと逸れてしまった、早く探さなければ。
人が犇めき合うプラットホームを歩きながら左右を見る。
ないと思うが、此処から出てはいないだろうな。

九と四分の三番線を出られたら叔父さんの家に帰るしかない。
しかもそこにはハリーというオマケ付きだ。

俺と帝王の身が持たない。
なにが悲しくて忌むべき者と暮らさなければならないのか。
それだけは絶対に回避したい。


「君、ポッターかい?」


前方から見知らぬ声がした。
最近俺に話しかけてくるのはドラコかハリーか女子くらいのものなのに。

その声は――珍しいことに――男子の声だった。
別段驚くことはないが、あまりの奇特さに歩みを止める。
男子の七割は俺を妬んでるから。

声のした方には年上らしき男子生徒。
俺と同じく黒い髪だが、俺よりも男前な顔だ。

体の横に添えられた腕は筋肉が程好いバランスでついている。
手には箒乗りなら誰でも持っているだろうタコ。
クィディッチの選手か。

黒髪美形のクィディッチ選手?
そんな容姿は我らが蛇の住まう寮でもグリフィンドールでも見ない。

という事はハッフルパフかレイブンクロー。
後は性格から読み取る他無い。
なんて面倒なんだろう。


「ハリーを探してるのかな」
「いいえ、夏の間は友人の家に泊まるので」
「誰?」
「ドラコ・マルフォイです」


驚きに目を見開いた彼を見て、引かれた、と思った。
どいつもこいつもマルフォイと聞けばこういう反応をする。

それはマルフォイ家が異常なまでの純血主義の家系だからか。
はたまたその所業がひっそりと語られているからか。
定かではない。

だが、魔法から遠い生活をしてきた俺にとってはただの差別だ。
おそらくあの愚弟も薄々分かってはいる筈。

目の前の先輩はどちらだろう。
どうせバツの悪そうな顔をして立ち去るに決まっているが。
利己的な考えを持つ人間ではなさそうだから。


「良かった、マルフォイさんなら僕の両親と話してる」


意に反して彼は穏やかに笑った。
案内するという言葉に礼を言いながらも、少し疑ってしまう。

さっと進みだした彼の後を慌てて追いかけた。
気まずい雰囲気に話をしようとして、息を詰まらせる。
彼の名前を知らないから。

失礼なことをしたと思い恐る恐る顔色を窺う。
それに気付いた彼が苦笑した。


「僕はセドリック・ディゴリー、ハッフルパフだ」
「え、と……スリザリンのブルー・ポッターです」
「ああ、敬語はいらない」
「でも」
「……型に嵌まった優等生には無理かな?」
「そんなことっ……!」


つい反論する。
一時的に感情が昂った所為か、素のままの口調で喋ってしまった。
まだ修復可能な時点ならいいのだが。


「口調、そっちの方がいい」
「ディゴリー先輩……」
「いつも違和感がある話し方だと思ってた」


ハメられたのか。
挑発に乗った俺も俺だけど。

あ、この先輩、思い出した。
確かハッフルパフのクィディッチチームのシーカー。
男女問わず人気がある真正のカリスマだ。

彼と一緒にいれば俺の株も上がるかもしれない。
これからは頻繁に連絡を取ってみよう。


「ほら、着いた」


ディゴリー先輩が示した先にはプラチナ・ブロンドの輝きがあった。
ぱっと見宝石のように思えるそれは手入れの行き届いた髪。
ナルシッサさんとドラコか。


「先輩、ありがとう」
「その呼び方は少し照れ臭いな。セドでいい、友達もそう呼んでる」
「分かった、セド」
「僕の両親は移動したみたいだから、これで」


そこで俺とセドは別れた。
未だ少なくならない人込みにセドが消えた頃、自分の過失に気付く。

素を晒したうえに上手く誘導されてしまったと。
だが幸いにも帝王は怒っておらず、お仕置きはなかった。
ほっと安堵の息を吐く。


(セドみたいになりたい)

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