ぎゃくせつ

□10、悪戯
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テスト期間になるまでは早く、そして終わるのも早い。
あまりの早さに、つい先日まで四月にもなっていなかったように思える。

魔法薬学のテストが終わった。
スリザリン生はこれで試験終了、晴れて自由の身だ。
なかには俺のように“忘れ薬”の作り方を振り返ってる奴もいるが。

寮の自室のベッドに寝転がり魔法薬学の教科書を投げ出す。
間違っているところはひとつも無かった。


「完璧っ……」


無意識のうちに呟いてしまった言葉に苦笑する。
スネイプ先生なら眼を皿のようにして間違いを探すだろう。
例えば……vがyに見えるとか。

実技は最低最悪だったが筆記は最高。
踊り出したねずみも爆発したパイナップルも水に流せる。

それでもだ。
グリフィンドールの一年生にはハーマイオニー・グレンジャーがいる。
彼女は筆記も実技もできる為、試験の順位では上にいくだろう。

まだ“完璧”じゃない。
帝王との契約が果たされるまでは。


「にゃー」
「ん」


足許で猫の鳴き声がした。
俺はもちろんドラコたちだって猫を飼ってないのに……。
ベッドから上半身を起こし床を見る。


「みゃあ」


ミセス・ノリスだった。
痩せた猫がちょこんと可愛らしく俺の足許に座っている。

潤んだ赤の瞳がこちらを見ていた。
きっと温かいのだろうその体を抱きあげて膝の上に置く。
すりすりと胸に擦り寄ってきた。


「なんだ、おまえ」


まるで癒してるようじゃないか。
荒れに荒れたこの精神を。


「曲がりなりにもあの管理人の相棒だもんな」
「にゃぁ」
「魔法使いのペットは、なにか不思議な力でも持っているのか」
「……」
「それともただのペットセラピーか」
「……」
「黙るな、癒せよ」


どうせ明日から普通の動物は寄って来なくなる。
ミセス・ノリスも自身の危険には近づこうとしないだろう。
もう少しくらい、こうしていたい。


(どうしてなくのかなんて分からない)

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