ぎゃくせつ

□9、輪回し
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ホワイト・クリスマス。
壁に隣接しているベッドから起き上がり、寝起きの頭でそう思った。
雪が降ってるのだから寒いわけだ。

大した感慨も抱かず、二度寝しようと毛布を被り直す。
新学期への予習復習はもう粗方済んでいる。やることは無い。

肩に感じる重みのない楽さと温かいベッド。
それらの環境が再び意識を静める手助けをしてくれる。
だが、突然開いたドアの音によって至福の時は壊された。


「ブルー、起きろ!」


入ってきたのはドラコだった。
彼は俺を包んでいた毛布を剥ぎ取り、ベッドの傍の窓を開いた。


「クリスマスだぞ、学校じゃ食べられないほど豪華なディナーが出る」


俺は目を擦りながら部屋の真ん中にあるソファまで移動した。
勢いをつけて座れば発育不良の身体は柔らかい布の中に沈み込む。
此処で寝るのもいいかもしれない。


「ほら」


そんな堕落した思考は目の前に差しだされた箱で掻き消された。
暗緑色の包装紙を銀色のリボンが飾っている。


「ど、どうせおまえは貰ったことなんてないんだろう?」
「……プレゼント?」
「ああそうだ!ク、クリスマスだからな!!」


まるで珍しい物を見たとでも言うかのような俺の視線。
その視線は照れたドラコと包装された箱を交互に見比べる。
慌てたように弁解まがいのことをされた。

別に誤解なんてしてない。
ソッチの気はないし……むしろあったら気持ち悪いし。

それにしても、クリスマスプレゼントか。
まだ魔法界の存在を知らなかった頃に一度だけハリーに贈ったことがある。
贈ったと言っても雪だるまだ。

お粗末な贈り物を、ハリーはとても喜んでくれた。
無邪気に、鼻の頭を赤くして、俺の手を労って。

…………それも、従兄弟のダドリーに壊されるまでだったが。

だから今この手の中にあるものが信じられなかった。
脳裏に過ぎる思い出はぐちゃぐちゃの雪だるま。
壊してしまいそうで強く掴めない。


「開けてみろ」


中身は白い革の日記帳だった。
さり気無くあしらわれている純金箔の蛇が美しい。

流石はマルフォイ家の嫡男。
魔法使いの名家出身という経歴を曇らせない美的センスだ。
この素材なら“銀”よりも“金”が映える。

と、プレゼントを用意していないことを思い出した。
元々そんな習慣からは遠い生活をしていたからか。


「プレゼント、用意してないけど」
「いつも世話になっているからな、来年でいい」


それよりも他のプレゼントを開けてみろとドラコは促す。
まるで、子供と恋人の為にあるこの行事を楽しめと言っているかのようだ。
美的センスはいいが、彼は時々子供らしくない。

苦笑を零す口許を手の甲で隠した。
その行為さえ隠すように窓の下に置かれたプレゼントに手を伸ばす。

まずはルシウスさんとナルシッサさんから。
長方形の重い箱に入っていたのはSの文字が刻まれた金装飾のロケットだ。
貴族趣味とも云えないそれは我らが寮に相応しい。

ハグリッドからは手彫りのオカリナ。
歪な形のそれが楽器として生涯を終えることができるのか怪しい。

人気者で優等生のイメージが定着してきたからか。
女子からのプレセントがやけに多い。
菓子類は捨てておこう、太る。

そして最後に残ったのは――


「開けないのか?」
「ああ……そのうち開ける」


最後に残ったのは手の平サイズの小箱。
黒い包装紙を彩る赤いリボン。


(髪に映える瞳の色)

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