ぎゃくせつ

□8、虫捕り
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『調子に乗るな』


帝王の声が頭に響いた。
その刹那、右目に今までの比ではない激痛が走る。

右目にあった帝王の魔力を勝手に使ったお仕置き?
残っている魔力が少なくなってリンクも薄れるから、痛みも減る計算なのに。
前よりも痛くなってる!!

どういうことだ!
“目玉に宿る魔力が減れば帝王との繋がりが消える”じゃないのか!?

動揺の余りか、痛みの余りか。
シルバーアローの柄から手が滑った。
しまったと思った時にはもう遅い。


「ぐっ……が、ぁ……」


俺の体は芝生に叩きつけられた。
すぐに視界がぼやけ始める。

一度目を閉じ、一瞬だけの暗闇の後、目を開いた。

暗闇は一瞬のように感じていたが、どうやら長く気を失っていたらしい。
頭上の真っ白い天井もアルコールの臭いも見覚えがあった。
――医務室だ。

未だに続く右目の痛みを感じ、皮肉げに笑った。
可笑しくて可笑しくて堪らない。

帝王の言ったとおり、俺は調子に乗っていたんだろう。
俺がハリーの生き死にを左右しているんだと有頂天になっていた。
神にでもなった気でいた。

けど、違う。
俺は弟を妬むだけの小さな存在。

幼い精神が刺激されればすぐ暴力に訴える。
ワガママで傲慢で耐え性がなくて自分の世界に閉じ籠っている馬鹿。
きっとスリザリンチームは負けただろう…………俺の所為で。


「気分はどうかな、シーカー」


真っ白いカーテンが開いてクィレル教授が顔を覗かせた。
彼は俺が横たわるベッドに腰かけ、カーテンを閉めた。
ターバンが解かれた。

正直、今はあの赤い瞳を見たくない。
お説教も勘弁してほしい。


『右目に残っていた俺様の魔力を使ったな……それも、無断で』


高い猫撫で声だが、明らかに怒っている。
説教が始まる前に訊きたいことがあるのに……。
命の保証がされるなら尋ねよう。


『いい、言え』
「……。帝王、魔力は使えば減りますよね」
『ああ、そうだ。だが貴様の目の痛みは減らぬ』


何故だかわかるか?
静かな怒りの見え隠れする声は俺とクィレル教授の恐怖を煽る。

質問を質問で返されて、考える気も起きないのに。
歯の根が噛み合わないこの場の空気で思考が回る筈ない。
タイムアウトはすぐに訪れる。


『答えは貴様が俺様の魔力に依存しているから……分かったな?』
「依存?」
『そう、中毒者から薬物を取り上げるようなものだ』


そう言って嗤い、帝王はクィレル教授に指示を出した。
やっと溜まってきていた自分の魔力を俺にくれる気のようだ。
理解に苦しむ。

……いや、例え磔の呪文で苦しんだとしても理解できないだろう。
彼は中二病でもなく正真正銘闇の帝王なのだから。

孤高で孤独で俺以上に独り善がりな奴の心情なんて察せられるものか。
開心術士ならともかく俺には読心術まがいのことしかできない。
しかもその特別でもない能力はハリーも共通だ。胸糞悪い。


「ご主人様がくださるのだ、光栄だろう」
「……ええ、本当に」


右目に甘美な魔力が満ちていく。
痛みが治まるのを感じた。


(不安が収まるのを感じた)

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