ぎゃくせつ

□6、島鬼
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三頭犬と遭遇した次の日の朝。
空はまだ白っぽいが、マダム・ポンフリーは寮に帰るのを許してくれた。
嬉しいことだと喜びすぐに帰り支度をする。

マダム・ポンフリーに借りたガウンを肩にかけ、廊下を進む。
さすがの魔法学校もこの時期になると寒い。

俺はスリザリン寮には帰らず、クィレル教授の部屋に急いだ。
足音をたてないように注意しつつなるべく早く走る。
管理人の猫に気を付けながら角を曲がった。

不思議だ。
昨夜はあんなに怖かったのに。

コンコン、と手の甲でノックする。


「クィレル教授、ブルーです」


軋みながら開いたドアの隙間に体を滑り込ませる。
蛇のような仕草の自分に自嘲。

教授はもうすでに起きていたらしく服装は整っていた。
きっちりとターバンも巻かれていて彼のまめな性格が表れている。
……帝王も起きているようだ。


『ブルー、飛行訓練はどうだった』


まるで俺のしたことを知っているかのように帝王は嘲う。
きっと彼にはなんでもお見通しなんだ。


「ネビルの所為でメチャクチャですよ」
「ロングボトム、か……」


クィレル教授が黙り込む。
なにか思うところがあるのだろうか。
できれば金輪際、あのチビデブには関わりたくない。


『して、まさか世間話をしに来たわけでもあるまい?』
「クィレル教授とならしてもいいんですけどね」
『……』
「帝王は物騒なことしか話さないでしょう?」


激痛の走った右目をおさえ苦笑する。
元々人見知りしない性格だった為か軽口を叩けるようになったらしい。

俺は帝王に昨夜あった事を全て話した。
ハリーたちに誘われて深夜の散歩に赴いたこと。
その先に辿り着いた立ち入り禁止の廊下でケルベロスを見たこと。

ケルベロスがその巨体の下に守っていたはね上げ扉のこと。
……もしかしたらそこに賢者の石が隠されているかもしれないことも。


「そのようなこと、もう……」
『クィレル、黙れ』


きっとあの扉の向こうには多くの罠が仕掛けられている。
クィレル教授も他の教師たちと仕掛けたから罠はそれほど問題じゃない。
三頭犬以外は攻略済みだ。

その三頭犬も殺してしまえば問題ない。
だが、ホグワーツにはアルバス・ダンブルドアがいる。

殺すのは駄目だ……それは最後の手段だ。


『よく知らせたな、ブルー』
「はい」


帝王に褒められると、何故か嬉しくなる。
ひょっとしたらそれは俺の名前を発音する時の優しさの所為なのかもしれない。
この声“だけ”が俺を安心させてくれる気がした。


(褒められたかった)

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