ぎゃくせつ

□5、お絵描き
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ホグワーツに入学して六日目、九月七日。
早くも最悪な日を迎えそうだ。

全て、魔法薬学の所為。
それを教えているのはセブルス・スネイプという教師で、我らがスリザリン寮の寮監を務めている。

この教師は髪や瞳、ローブまで黒で統一した別名“歩く蝙蝠”。
少々愛寮精神が強く、自寮の生徒を贔屓する。

それだけならいい。
むしろ優等生になりたい俺には好都合。
取り入り易い馬鹿な教師で済む。

問題なのは――俺を嫌っていることだ。
何故かは知らないが、その態度がいちいち癇に障る。

しかも、やけに頭が良い。
日頃の嫌がらせへの仕返しに仕掛けたブービートラップも、全て解除されてしまった。
犯人が俺だと感付いて人気のないところで厭味も言われた。

“人気のないところ”というのが頭にくる。
それで気遣っているつもりなのか。

呪文学と同じように、魔法薬学も出席を取ることから始まる。
そのことで、ハリーも同じように嫌われていると分かった。
という事はポッター家全体へ対しての怨みか。


「このクラスでは、魔法薬調剤の微妙な科学と、厳密な芸術を学ぶ」


本当に嫌な教師だ。
俺は先生のスピーチなんて望んでいない。
一挙一動が癪に障る。

演説が終わると同時に、スネイプ先生は俺たちのファミリーネームを叫んだ。
ややこしい。俺かハリーか区別してほしい。


「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」
「わかりません」


ハリーなんかに答えられるはずない。
それはあの分厚い教科書でも最後の方に載っているのだから。
実際に作るのは六年生だ。

助けを求めるようなハリーの視線を無視する。
何も書かれていない黒板や怪しげな棚を無心でジッと見た。


「ベゾアール石を見つけてこいといわれたら、どこを探すかね?」
「わかりません」
「モンクスフードとウルフスベーンとの違いはなんだね?」
「わかりません」


依然として質問の矛先はハリーに向いている。
別に答えられないわけじゃないが、俺には向けないでほしい。
無性に苛々してくる。


「では、もうひとりのポッターに訊くとしよう」


最悪だ。
予想していたとおり、最悪な日だ。

先程まで腹を抱えて笑っていたドラコが絶句した。
まさかこの状況で先生が俺を差すとは思いもよらなかったのだろう。
クラッブやゴイルさえ固まっている。

けど、俺にとっては自分の優秀さを見せつける舞台にさえ思えた。
なにも心配することはない。


「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」
「生きる屍の水薬です。 睡眠薬ですが、あまりに強力なためこのような別称で呼ばれています。他にカノコソウの根や催眠豆が材料として必要です。催眠豆の汁の分量を少しでも間違えると服用した者は永遠に目覚めません」


先生の顔が歪む。
悔しくて仕方がないというような表情だ。
その反対で、俺は楽しくて仕方がない。


「ベゾアール石はどこを探す」
「山羊の胃の中から取り出す結石のことですね。 錬金術を取り入れて作られた人工のものもありますが、山羊の胃の中から取り出したものが重宝されています。萎びた肝臓のような小さな石で、たいていの薬に対する解毒剤となります」
「……モンクスフードとウルフスベーンとの違いは……」
「どちらも同じ、別称はアコナイトですが、つまり鳥兜のことです。特徴的な花が咲きます」


非のつけどころもない完璧な回答だ。
ハリーとドラコを筆頭に生徒からは驚きと称賛の視線を浴びる。
本当に気分がいい。

勉強を教えてくれる帝王には感謝してもしきれない。


(優等生への道)

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