ぎゃくせつ

□4、帽子回し
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「皆さん、一列になって。ついてきてください」


戻ってきたマクゴナガル先生が騒がしい新入生たちに声を張り上げた。
大広間かキッチンに行っていたのか香ばしい匂いがする。


「さあ、早く!」


俯いていた顔を上げ、ドラコは俺の後ろに並ぶ。
どうやら俺も知らないうちに列に組み込まれていたらしい。
しばらくウロウロしてたクラッブとゴイルも列の最後尾に入れた。

新入生の集団は部屋から出て玄関ホールに戻り、二重扉を通る。
おそらく大広間だろう。


「!」


そこは、俗に云う大広間ではあったが、一般的ではなかった。

夢でさえ見たことのない、不思議で素晴らしい空間。
宙には数えきれない量の蝋燭が浮かび、天井は星が瞬く藍色の空だった。
四つの長テーブルには上級生たちが座り、金の皿などが置いてある。

広間の上座の長テーブルは教師の為にあるらしい。
真ん中にいる老人が、以前“ホグワーツの歴史”で見たダンブルドアだ。


「すごい……」


魔法だらけ。

マクゴナガル教授は上座まで新入生を引率した。
そして上級生の方に顔を向けるように一列に並ばせる。
新入生らの前に置かれた三脚のイスを……否、その上の帽子を俺も見た。


「アボット、ハンナ!」


マクゴナガル先生は羊皮紙を取り出し、新入生をひとりずつ呼び始めた。
そして新入生をイスに座らせて帽子を被せる。

帽子は生徒に適した寮の名を挙げるのが役目らしい。
ドラコはイスに座りはしたが、帽子は頭に触れないうちに叫んだ。
大広間に響いた言葉は『スリザリン』だ。

やはり彼には父親と同じ才能がある。
将来に期待したいところだが、利用されるのは遠慮したい。


「ポッター、ブルー!」


とうとう俺の番だ。
新入生の集団から抜け出してイスに座る。
すぐに帽子が被せられて視界を黒く覆った。

先程呼ばれたハリーの時とは大違い。
俺のことを冷たい目で見る奴が大勢いた景色を打ち消す。

そうだ、俺がスクイブだという噂をどれほどの人間が知っているのか調べよう。


『ああ、ハリー・ポッターの兄か』


耳許で低い声が聞こえた。
誰が話しているのかなんて愚問だろう。
喋る帽子に決まっているのだから。

それにしても魔法界はなんでもありみたいだ。
中世の名残りが残っているようでいて、実は万能じゃないのか?


『いいや、魔法にも限界はあるさ』


思考を読まれた?
……そういえば、帝王も同じようなことを平然とやってのけてた。
最初に会ったときもそうだ。

けれど、読心術なんてプライバシーもなにもあったものじゃない。
それでも必要と見なされたからこその能力か。


『ブルー、私の話を聞きなさい』
聞いて何になる。
『……君は少し猫を被ることを覚えたほうがいい』
今のままでもマグルの知り合いには気付かれなかった。
『ホグワーツの教師は勘が鋭いぞ』
忠告?


まるで俺に用心しろと言っているようだ。
本当に他人の思考を読めるのか……怪しくなってきた。
読めるなら、俺がヴォルデモート卿の傘下であることも分かるだろうに。

そこで、敢えて忠告。
藁で出来た案山子のように、帽子に脳みそはないのか。


『酷い言いようだな……』
それで、魔法の限界は?
『おや!聞く気になったか』
おまえが先に言い出したんだろ。
『だが気になっていたから訊いたのだろう?』


答えない。
これ以上踏み込めばボロ帽子のペースに飲まれてしまうからだ。
あまりにも滑稽過ぎる。

俺が完全に聞く側に回ると帽子は溜息を吐いた。
けれど話そうとするあたり、第一印象ほど悪い奴じゃないのかもしれない。


『どんなに優れた闇の魔術でも、死者を生き返らせることはできない』


意外だった。
この老齢な帽子なら、不老不死の不可能性を語ると思っていたのに。
まさか死者蘇生についてなんて……。


『ふむ、君の寮は特例でダンブルドアに決められていたが、なんと』
……。
『いっそ素晴らしいほどそこに適さない』
そうか。
『随分と興味がなさそうだね』
……まぁ……。
『悪いが、君の寮は、


(死者蘇生なんてナンセンスだけど)

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