ぎゃくせつ

□4、帽子回し
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ドラコたちがハリーに会いに行って十数分。
紅色の蒸気機関車は何事もなく無事に走行している。

俺は窓辺に頬杖をつき、静かに薬草学の教科書を読んでいた。
だが他の奴らはそうもいかないらしく通路で駆けっこをしている。
落ち着きがないな。

軽蔑するようにそう思っていると、コンパートメントのドアが勢いよく開いた。
そしてプラチナ・ブロンドの少年が息を切らせて飛び込んできた。


「走ってたのはお前たちか……」
「ブルー!おまえの弟、躾が成っていないぞ!」
「躾けた覚えなんてない」


いちばん体力がないドラコの背中をさすりながら後の二人も迎え入れる。
クラッブとゴイルは汗だくでかぼちゃジュースを一気飲みした。
それでも火照りは消えないだろう。

いったい何があって走っていたのか……。
ハリーがダドリー以外の誰かに危害を加えるなんてね。

息を上げた坊ちゃんとその腰巾着を呆れつつ眺める。
すると、ゴイルが指を執拗に気にしている事に気付いた。
見ればぷっくりとした指にぷっくりと丸い血の球が出来ている。


「ちょっと、待ってろ」


教科書をしまうついでにバッグを漁った。
すぐに目的の物――小瓶を取り出す。

半透明の液体が入ったガラス製の小瓶。
左右に振ればどろりとしたスライム状の中身が微かに揺れる。
なんの迷いもなく、ゴイルの指にそれを垂らした。


「すぐに治る」
「あ、ありがと……」


これは小さな傷を癒やす事が出来る魔法薬だ。
マルフォイ邸でヴォルデモート卿に作り方を教えてもらった。

確かに俺はスクイブで、魔法がコントロールできない。
それどころか魔法界についてなにも知らない。
けれど、あの人は見捨てなかった。

知識を詰め込めばいいと、魔法の勉強をひと通り教えてくれた。
帝王の考えは俺の呑み込みの早さも手伝い簡単に進んだ。


「頑張り過ぎてないか?」


もうすでに治りかけたゴイルの傷を見てドラコが呟く。
あながち的外れでもないと苦笑した俺は、三角帽を頭にのせて通路に出る。
窓の外は藍色の夜空だ。

汽車はもうホグワーツに着いている。
俺と同じデザインのローブや制服をドラコたちも着ている。
マグルのプリマリー・スクールとあまり差はない。

――城までの案内役は、ハグリッドだった。

湖を渡る為にボートに乗ると、周りは途端にそわそわし始めた。
水の上なんだからもう少し落ち着いてほしい。

ホグワーツ城に着くと、先導する教師が変わった。
今俺たち新入生を引率しているのは厳格そうな老いた魔女だ。

待機していろと俺たちは玄関ホール横の狭い部屋に押し込められた。
不満そうな顔のドラコと目が合い、曖昧に笑う。
確かに窮屈だ。

けど、これから俺の人生が変わる。
そう思えば全身の血が煮える様に熱くなった。


(疑問符なんて愚かだ)

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