ぎゃくせつ

□3、お人形
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黒髪緑眼の少年たちを初めて見たのは漏れ鍋だった。
クィレルと共に賢者の石を奪う計画を実行に移そうとしていたあの日。

息苦しいターバンの中でも分かった。
十年前、俺様を霊魂にも満たぬ霞に還した双子の赤ん坊。
そいつらが成長して魔法界へと舞い戻ったのだと。

俺様はポッター兄弟を二人とも憎んでいるわけではない。
実際に退けたのはハリーであってブルーは完全なる被害者だからだ。

ああ……。
それに関しては、ブルーに同情すらしている。
『なんて可哀そうなのだ』と。

その時――漏れ鍋でもそう思っていた。
客観的に思うだけなら、損もないだろうと。

だが、ブルーが“スクイブ”の意味を知った時だ。
あの一見善良そうな双子の兄に闇の魔術の才能を見出した。
奴は必ず傾倒するだろうと確信が持てた。

だからこそ計画を変え、服従させた小鬼に金庫を漁らせるに留めたのだ。
俺様はルシウスと接触しブルーを隔離する必要があったから。

魔法省を始めとする世間はまんまと惑わされてくれた。
石こそなかったが、老いぼれ――ダンブルドアが妙に喰い付いてくれた御蔭で在り処も知れた。
盗みに入り、徒足を踏むより幾分もいい。

それに、今朝方ダンブルドアからクィレル宛てにパトローナスの伝言がきた。
あやつの懐に在る人間は便利だとつくづく思う。

クィレルの体に寄生して、これ程までに喜ばしいことは初めてだ。
だが、もうこの人材からは甘い蜜は採れそうにない。
そろそろ見切りをつけるべきか。


『ルシウス……でかしたぞ』
「身に余る光栄です、御主人様」


ブルー・ポッター。
天蓋つきベッドで呑気に寝ている少年の名。
忌々しいあの餓鬼の兄。

こいつの弟が俺様を退けた際に潰れた右目があるからか。
弟と違って、御優しい母親の恩恵を受け損なったためなのか。
その顔を見ているだけで親近感が沸く。

それとも……孤児であることが関係しているのかもしれない。
戯言だ。


「それで――あの、御主人様、この子供をなんの為に?」


そうだ……失念していた。
憎い小僧から最愛の兄を奪うことで満足してしまうところだった。
否、兄が用済みになれば弟の目の前で磔にしてくれよう。


「賢者の石ならクィレルの体でも奪えるのでは……」
『はっ、あの愚か者でか?不可能だな』


それどころか、ハリーを殺す事すらできぬだろう。
あのような脆弱な精神の者……。

ダンブルドアの攻撃に耐えられるわけがない。
今までの交戦を踏まえれば、奴は必ず精神に揺さぶりをかけてくる。
俺様を殺すには魂からと考えているらしいから。


『だが……ハリーやこいつなら、容易く取れる』


老いぼれはポッターを贔屓している。
そして、明らかに偽りの英雄へと仕立て上げようとしていた。
奴自らが贔屓する英雄ならば悪役が狙う宝物を手に入れられよう。

ただし、英雄になるのはスクイブではないハリーの方。

マキャベリ的なあの老いぼれのことだ。
兄でありながら弟より劣っているブルーはハリーのサポート役とでも考えているのだろう。


『兄弟同士で殺し合い、あの小僧の顔が歪むのも一興』


可哀想なブルー・ポッター。
誰もが知らぬうちに仲間から外された“他称”スクイブ。


「御主人様、次の御指示は」
『待て』


どうせ賢者の石如きでは本当の意味での俺様の肉体は帰らないのだ。
一生“命の水”に依存して生きるなどナンセンス極まりない。
賢者の石は意外とデメリットが大きい。

完全な物質とはよくいったものだ。
ホグワーツに滞在するのは必須事項なのだから、石はそのために使おう。


『精々、役に立ってもらうぞ』


(闇の帝王の独白)

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