ぎゃくせつ

□1、じゃんけん
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まただ。
風がぶつかるのとは明らかに違う。
大砲のようなその音を立て、誰かがしきりにドアを軋ませる。

ノックしている様な間隔だがそれにしては荒々しい。
いるとすれば、無礼にも程がある客人だ。


「兄さん……」


奥の部屋から何かが崩れる音がした。
それから五秒も経たないうちに叔父さんがライフルを片手に飛び出してくる。
そういえば、この孤島に渡る前に細長い包みを持ってた。


「誰だ。そこにいるのは。言っとくが、こっちには銃があるぞ!」


叔父さんが顔を蒼白にして叫んだ。
断続的に繰り返されていた大きなノックに少しの空白が空く。
止んだか、と誰もが安堵した次の瞬間。


「ひっ――」


一際強いノックで扉の蝶番が吹っ飛んだ。
腐った板が軋みながら床に倒れる。


「に、兄さん……」


空に稲妻が走り、戸口に立つ大男の姿が映えた。
手入れした形跡もない長い髪と髭、それらに埋もれた顔で漆黒の瞳が輝いている。
異常な、不思議な事態が起こっている証拠だ。

男は部屋に入り、まるで歓迎されているかのようにソファを目指した。
自分に近付いてくると、ダドリーが恐怖で凍り付いている。


「少し空けてくれや、太っちょ」


自分が座る為のスペースをくれという事らしい。
けれど、ダドリーは金切り声をあげて叔母さんの後ろに逃げ込んでしまった。
その叔母さんも叔父さんの後ろに隠れている。


「おおっ、ブルーにハリーだ!」


俺は大男からハリーを守るように前に出た。


「最後におまえさんらを見た時にゃ、まだほんの赤ん坊だったなあ。ブルーは母さんで、ハリーの顔は父さんそっくりだ。でも二人とも目は母さん譲りだなあ。おっと、ブルー、悪気はねえんだ」


つらつらと両親について話し出す男に、俺は疼くものを感じた。
ハリーだけじゃなくその兄の俺も特別な存在だったんだと。

叔父さんが何か喚くのも、
不格好なバースデーケーキも、
自分が特別だという話を聞けただけでどうでもよかった。


「あなたは誰?」


ハリーが発した言葉で正気に返る。
俺も気になって男のコガネムシのような黒目を見つめた。

と、部屋の隅に丸まったライフルが転がっているのを発見した。
明らかに尋常じゃないことが起こっているという証だ。
そう思うだけで変に気分が高揚してきた。


「俺はルビウス・ハグリッド。ホグワーツの鍵と領地を守る番人だ」


……ホグワーツ。
どこかの地域か建物らしいが聞いたことがない。
叔父さんの顔色を見るに、毛嫌いする“不思議なもの”のようだ。

ハグリッドに勧められ、俺たちは暖炉の火に当たった。
その火で焼いた太くて軟らかいソーセージも同じように勧められる。
隣でハリーが美味そうに齧り付いているから悪いものではないらしい。

それでも、食べるのは軽率だ。
彼の言うことが本当だとしても、特別な俺たちを殺しに来たのかもしれない。

ふと、そんな傲慢極まりない考えが浮かぶ。

ジッと土だらけの床を見つめる。
誰にも気付かれないようにソーセージを放り、上から土を被せた。


(俺は特別なんだろ?)

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