ぎゃくせつ

□9、輪回し
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バチンッ。痛々しい音と共にゴイルが床に転んだ。
充分に厚着したドラコが彼を蹴飛ばし、クラッブが起こしてやる。
俺は自分とドラコの荷物を持ちながらそれを眺めていた。

十二月も半ばになり、今日から待ちに待ったクリスマス休暇だ。
紅色の汽車が生徒たちを乗せ九と四分の三番線に向かう。


「到着早々もめるなよ」


汽車の外でルシウスさんとナルシッサさんが待っていた。
マルフォイ家当主の顔からはいつもの厳しさや不敵さは窺えない。
柔らかく微笑んでいる。

ホームでクラッブとゴイルと別れて、俺はドラコたちの方に行く。
すぐ傍を紅色の汽車が通り過ぎた。

個人的には、マルフォイ家は美人が多いと思う。
それは何故か他家から嫁いできたナルシッサさんにも当て嵌まった。
つまり、美人親子三人が仲良く笑い合う様は麗しい。

そこにだけ華が咲いたような雰囲気に満ちている。
どんな傲慢な奴だって近づくなどと無粋なことはできないだろう。

誰にも壊されない美しい家族愛。
写真にでも収めて飾っておきたいくらいの美術品だ。
……同時に、この手で跡形もなく壊してしまいたいとも思う。

帝王がいなければ俺もああして“キレイ”に笑えていたのだろうか。
そんな考えが頭をよぎった時、胸に刺すような痛みが走った。


「?」
「ブルー!早く来い!」
「あ、す、すぐ行く」


左胸あたりの服を掴んで突っ立てた所為か、ドラコに急かされた。
添付された言葉の意味を噛み砕き、慌てて返事を返す。
痛んだ胸についての疑問は思考の隅に追いやった。


「ブルー、どうかしたの?」
「いえ……なにも」


きっと副作用だ。
一ヶ月前に新しく入れてもらった帝王の魔力が馴染んでないだけ。


「なにか嫌なことでもあったのかね」


そっとルシウスさんに訊かれた。
返事を返してもいい状況なのかを確かめる為に周りを見回す。
……大丈夫、ドラコは少し遠くでナルシッサさんとデザートの相談をしている。

向き直ったとき、ルシウスさんは眉根を寄せていた。
薄青い瞳に悲しみに極近い感情が映っている。


「……伸び過ぎた前髪で目が隠れている」
「ああ。これ、ですか」


自分の瞳を隠す前髪を一束摘む。
それによって薄暗かった視界が一段階明るくなった。
壁が取り払われたようでくすぐったい。


「別に、何もありませんよ」


強いて言うなら、


「ならば良いのだがね」


嫌なのは、


「さあ、帰りましょう」


自分。


「はい、母上」
「しばらくお世話になります」


(自分がどうしようもなく嫌で嫌い)

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