ぎゃくせつ

□8、虫捕り
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十一月になった。
空気は寒いが、晴れてるし箒に乗るうえでは邪魔にならない。

今日は俺とハリーの初戦なのだ。
スリザリン対グリフィンドールのクィディッチ試合。
生徒は期待の新人たちの活躍を見ようと席を争っている。

俺は自慢の箒、シルバーアローを片手に寮の自室を出た。
ハリーとそのお仲間を負かす自信はある。

――と言いたいところだが、そこまで驕れない。
スリザリンは他の寮と比べてあまりクィディッチの練習をしないから。
面倒事をとことん避けて通りたい先輩たちの所為だ。

だが、出来る限りの自主練習はしている。
場所は真夜中のクィディッチピッチだったりホグワーツ城全体だったり。

粘りがあれば教師も競技場の使用を許可してくれるかもしれない。
そしたらひとりでの練習もできるだろう。
が、それでも時間が足りない。

更衣室でスリザリンチームのユニフォームに着替えながら溜め息を吐く。
疲れている所為か、最近溜め息が多い。


「ブルー、弟を負かしてやれ!」
「はい、フリント先輩」


我らがチームのキャプテン、五年生のマーカス・フリントが言った。
同胞には気の良い奴だが、馬鹿力なのが時に仇となる。
それと、馴れ馴れしい。

トロールのような外見に忠実に頭もトロール並。
世渡りだけは上手いのだろう。

シルバーアローを抱えグラウンドに出た。
銀と緑の観客席からは歓声、その他の観客席からはブーイングが飛ぶ。
来年には俺の優秀さをもって全て歓声に変えてやる。

そう誓って晴れた空を仰ぐ。
審判を務めるマダム・フーチが競技場の真ん中で選手たちを待っていた。


「よーい、箒に乗って」


その掛け声を聞いて俺は“銀の矢”に跨った。
ハリーもニンバス2000に跨りすぐにでも飛び立てそうだ。
先生を挟んで寮チームのシーカーの視線が絡まる。

フーチ先生の笛の音を合図に十五本の箒が空に上がった。
高く放り投げられたクアッフルは紅いローブの選手に奪われる。

――試合開始だ。

誰かが耳許で囁いた気がした。
けどシルバーアローはもう観客席よりも高い位置にある。
愚考を振り払い俺は競技場の下方へ……ハリーは上方へと移動した。

飛べば飛ぶほど体が軽くなっていく。
地上に居るよりも呼吸が楽だ。

赤毛の選手たちの方からブラッジャーが突っ込んでくるのが見えた。
スリザリンの誰かが上げた悲鳴を聞いて少し目立ちたくなる。
手っ取り早い方法としては暴れ球を打ち返すこと。

有言実行。
銀と緑の観客席から歓声があがった。

だが優越感に浸っていられるのもそこまで。
スニッチを見つけたらしいハリーが俺のすぐ傍を通りこして行った。
沸いた観客席に苛立ちが募る。


「ぐっ!!?」


突然右のこめかみにクアッフルがぶつかった。
ブラッジャーより威力はないが頭がくらくらする。

きっと両目が見えたなら避けられたんだろう。
動揺する頭でそう思えば、帝王に躾けられた思考回路はハリーに牙をむく。
愚弟があのまま……母さんの加護も受けずに死んでいれば……なんて。


「――」


ポツリ。
囁いた。

瞬きもせずにその続きを言葉にし気付かれないように上空を旋回する。
そう時間も経たず、ハリーの箒が妙な動きをし始めた。
観客席で異変に目を留める者はいない。

焦るハリーの無様な姿。
自然と、無意識に口角があがった。
まさかこんなところで役に立つなんて。

他人の魔力を使って物を操り呪いをかける術。
この場合の他人とは俺の体の一部に魔力を残す人物……

ヴォルデモート卿だ。

彼はハリーを憎んでいるから、この術は最大限の力を発揮するだろう。
前後上下左右に振り回される愚弟を見れば心が躍る。

ほら、早く堕ちろ、英雄気取り。


(そして終わらせてくれ)

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