ぎゃくせつ

□7、命令ゲーム
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ハロウィーンの朝。
大広間で朝食をとる俺の許に、箒を持った五羽のコノハズクと手紙を持ったヘドウィグが来た。
棒状で先端にふくらみがあるそのシルエットは箒以外にありえない。

ヘドウィグの手紙は……ハリーからだろう。
内容は、数日前の三頭犬について。

やっと届いた箒をコノハズクから受け取る。
コメット260や流れ星よりも軽く、包装紙越しのラインは細い。
正に競技だけに特化したフォルム。

スリザリンのクィディッチの練習は週に一回だ。
他の寮と比べると二回少ないが、ここ数年負け知らずだという。

次の練習は来週の水曜日。
俺はその日から正式なメンバーとして練習に混ざることになっている。
そんなに待っていられるか……早く箒に乗りたい。

シルバー・アローに思いを馳せているうちに半日が経過した。
今日学習した内容が頭に入ってこない。

夕食のためにドラコと大広間に向かう。
その間、話題は俺に贈られてきた箒が中心だった。
本当に気分がいい。


「っ……!?」


右目に鈍痛が走った。
出そうになった声を噛み殺す。

痛みはズキズキと持続している。
どうやら帝王の機嫌を損ねるような何かがあったらしい。
けど、いい加減にしないと俺の身が保たない。

数多の蝙蝠が飛び交う大広間の天井の下。
小さく切ったパンプキンパイを口に運びながら溜め息を吐いた。

と、観音開きの扉が勢いよく開け放たれる。
水を打ったような静けさの中に飛び込んできたのは、クィレル教授だ。
なんだろう……こんなの計画にない。


「トロールが……地下室に……お知らせしなくてはと思って」


それだけ言い、教授はうつ伏せに倒れた。
分かったのはトロールが地下室からホグワーツ城に侵入したことだけ。

気絶するというのは中々いい作戦だと思う。
少なくとも余計な詮索を先延ばしにはできるんだから。
だが帝王が“先延ばしにする”なんて意味のない作戦を計画に入れるか?

第一、俺は何も知らされてない。
となるとこれはクィレル教授の独断。

後で帝王にこってり絞られるな。
計画を全潰させる程の危険性があるから。
本当にヒヤヒヤする。


「それにしても」


監督生に続いて寮に避難する途中でドラコが呟いた。
呟いたとは言っても俺に向けられているらしいので耳を傾けておく。


「トロールなんかにホグワーツに侵入するほどの頭があるか?」
「一口にトロールと言っても様々だからな」
「例えば?」
「山トロールや川トロールとか」
「それでもだ、明らかにおかしいだろう」


前から思っていたけど、ドラコは変に頭が切れる。
簡単に丸め込まれてくれたかと思えば今みたいに鋭い発言をしたり。
やっぱり末恐ろしい。

この蛇竜は将来幾つのヒトを潰すのだろう。
いったいどれ程の人間の人生を台無しにするのだろうか。
彼が父親に従っていれば、必ずそれを何とも思わない人間になるだろう。


「誰かが手引きしているとは考えられないか?」
「ナンセンスな考えだ」
「そうでもない」
「いいや、そうだ」


進むことを止めて呟いた。
怪訝そうな顔をしてドラコも立ち止まる。
後ろから来ていた奴らが迷惑そうに俺たちを避けていく。

……少し遅れることくらいは仕方ないか。
まずはトロールの侵入にかけられた疑いを晴らさなければ。

俺は真っ直ぐにドラコの薄青い瞳を見つめた。
居心地が悪そうに眼を逸らす彼の顎を掴んででも見つめ続ける。
騙す為に。


「ドラコ、おまえは馬鹿だ」
「……ブルー?」
「よく考えろ、ホグワーツには優秀な教師がいる」
「いる、だが」
「確かにいくつか難はあるな」


厳格なマクゴナガル先生、呪文の扱いに長けたフリットウィック先生。
それに加え、
我らが狡猾な蛇の寮の寮監は……?


「……セブルス・スネイプ先生」
「そう、ドラコ、正解だ」


滑らかなプラチナ・ブロンドの髪を撫でてやる。
だんだんとドラコの目がとろんと眠気を帯びてきた。

運ぶのは面倒だが、寝てしまえばいい。
そうすればこの異様な体験もあやふやになる。
今まで通りだ。


(しばらく起きないでくれ)

 

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