ぎゃくせつ

□6、島鬼
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ふっ、と意識が現実に引き戻された。
夢の残像はない。

反射的に重い瞼を上げて、視界に入ってきたのは白い天井。
どうやら俺はベッドに寝かされているらしい。
周りをカーテンで囲まれている。

少しキツめの消毒液の臭いが鼻を突いた。
此処は医務室なんだろう、これでもかというほど清潔感で満ちている。

上半身を起こした。
両腕を前に突き出し、手を握ったり開いたりを繰り返す。
ベッドから立って屈伸をしてみる。

……痛くない?

気絶する前は全身が痛くて……。
起きた後苦労すると危惧していた。

これも魔法だからこそ成せる技なんだろうか。
電気はないくせに変なところで画期的なのが魔法界。
とりあえず、杞憂に終わってくれてなによりだ。

ベッドサイドテーブルに置かれていたサンドウィッチを食べながら笑む。
どうせ、引きつっているんだろうけど。

カーテンの外から差し込む淡い光の御蔭で夜だと分かった。
さすがに、近くに“ヒト”の気配はない。
それにしても暇だ。

普段教科書を入れている鞄もない。
杖なんてあっても使えなければただの棒切れだ。

きっとネビル・ロングボトムも退院したんだろう。
……そういえば彼には俺の本心を漏らしてしまっていた。
疲れていたからかもしれない。

けど。
あの劣等生がなにを言おうと誰も信じない。

まだ不完全だが、俺は優等生としての地位を着実に築いているのだ。
次の日もその次の日も今まで通りに振る舞っていれば嫌な噂は消える。
卑しいことがなければ堂々としていればいい。

やることがないのなら寝よう。
そうした方が怪我の治りだって早いに決まってる。
怪我なんて、在るか無いかも分からないけど。

シーツを被り枕に頭を埋める。
と、涼しげな音をたててカーテンが開いた。

慌ててそちらを見れば、月の光を反射して輝く眼鏡。
その奥で輝いている翡翠色と目が合った。
ハリーだ。


「兄さん……起きてる?」


奴の後ろにはロナルド・ウィーズリーとハーマイオニー・グレンジャー。
二人とも不安げな目で俺を見ている。

更にもうひとつ視線を感じた。
可笑しいと思いながらも医務室の出入り用のドアを見る。
…………ネビル・ロングボトム。

なるほど、本当に俺が“チビデブの泣き虫”なんて言ったのか、
自分でも分からなくなってるな。


「ハリー、消灯時間は過ぎたよ」
「ブルー!わた、私は止めたのよっ!!」
「静かにしろよハーマイオニー!」


おまえも静かにしろ、ロナルド。
もし医務室の近くを巡回してる先生や監督生がいたら面倒だから。
せめて俺の無罪だけは保証してほしい。


「兄さん。僕たち、これからマルフォイと決闘しに行くんだ」


友人たちを押し退けてハリーが言った。
けれど、それを俺に打ち明けた意図が掴めない。

決闘のルールは知ってる、が。
そんなもの図書室に行くまでもなく、ロナルドにきけばいい。
介添人を求めているというのも論外だ。


「一緒に来てよ」


俺がドラコの友達だって、知ってるよな……?


(でも止めようとは思わないんだ、思えない)

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