ぎゃくせつ

□4、帽子回し
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今日、九月一日はホグワーツに入学する日だ。
俺とドラコはマルフォイ夫婦に連れられキングズ・クロス駅に来ていた。

駅は至って普通の――マグルの――駅だった。
そんなところからどうやって魔法学校に行けばいいんだろう。
絨毯や箒なんてどこにもない。

かと思えば、九番線と十番線の間にホームがあるらしい。
よく観察していれば確かにその辺りで家族連れが消えている。

俺は怯みながら改札口に突っ込んだ。
ぶつかれば痛いどころか周囲の笑いものになる。
堪えられない。


「って、あれ……」


覚悟していた衝撃は来ず、代わりに目の前の景色が変わっていた。
しばらく呆然として、通行の邪魔だと気付きそこから退く。

カートごと横に退いたところでドラコが壁を通り抜けてきた。
あと少し遅ければあの勢いの体当たりを喰らっていたかもしれない。
此処には信号機を付けるのが得策だ。


「ブルー、あそこに僕の友人がいる」
「友人?」
「ああ、クラッブとゴイルだ」
「……」
「見かけどおり脳みそはないが腕力はある」


そう言ってドラコが指した先には、少年が二人、居た。
どちらも新入生とは思えないほどの巨体だ。

本当に友達なのか?
親や教師、上級生の前ではそうでも、蔭ではドラコの立場は低そうだ。
暴力で一方的に捻じ伏せられているんじゃ……。

この夏で随分と“親しく”なったルシウスさんに不審そうな視線をやる。
すると、彼は苦笑して俺の頭を撫でた。


「逆だ」


逆。
ということは、クラッブたちがパシリ……いや。
パシリなんて言葉より腰巾着や子分と言った方がいいか。


「十一歳で部下持ちですか」
「私の旧友の子たちだ」
「馬鹿な大人ならもう言い負かせそうです」
「さて、どうかな」
「……本当に、末恐ろしい」


人の上に立つ才能。
一見、リーダーシップの欠片もなさそうなのに。

ヴォルデモートはドラコを鍛えるべきだった。
やや臆病な性格さえ叩き直せば充分使える人材になる。
閉心術とかいう魔法にも向いていそうだ。

俺とドラコは荷物をクラッブたちに任せ、紅色の蒸気機関車に乗った。
マグルの世界にもありそうなこれでホグワーツに行くのだと。

人混みをかき分け、いちばん奥のコンパートメントに入る。
マルフォイ夫婦に挨拶をするために窓側の席に座った。
俺の前はドラコだ。


「十二月まで会えないなんて、本当に寂しいわ」


ドラコの母親――ナルシッサさんは美しい顔で笑い、そう言う。
彼女は我が子が遠くの学校に入学するのが許せなくて、家出をした強者だ。
息子を溺愛し過ぎてる。

その上息子だけではなく夫のことも愛しているときた。
よくも不確かな“愛”を語れるな、と思った事は忘れていない。

マルフォイ邸で過ごした夏はとても短い。
けれど、ナルシッサさんは俺のことも実の子のように可愛がってくれた。
母親というものがペチュニア叔母さんだけの俺には新鮮だった。


「ブルーも、クリスマス休暇には遊びに来ていいのよ」
「はい、じゃあ御言葉に甘えて」
「ええ。楽しみね」


と、警笛が鳴った。
汽車が線路の上を滑り始めると同時にルシウスさんが口を開く。
それをよく聞きとる為に、ドラコが窓から身を乗り出した。


「マルフォイの名に泥を塗るような真似はするな」
「はい、父上!」


その返事も何処へやら、汽車がカーブを曲がるとドラコは早速席を立った。
腰巾着のクラッブとゴイルもそれに続く。


「どこに行くんだ」
「ハリー・ポッターを、な」


そんなに敵を作りたいのか。
本当にそうなら俺は止めようとは思わない。
ただ、ドラコは一度ハリーと会っていて完膚なきまでに嫌われている。

確か……無粋なことを訊いたりハグリッドを侮辱したりしたとか。
ハグリッド云々は置いといて、俺から見ても第一印象は芳しくない。

それでも、止めようと云う気は起きなかった。
俺にはそんな義理はないし義務もない。
精々泥を塗られてくればいいさ。

ナルシッサさんに貰ったクッキーを食べながら、笑んだ。


(社会勉強)

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