ぎゃくせつ

□3、お人形
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まだ東の空が白い時刻。
ハリーと話していて昨日できなかった荷造りをしていた。

ダドリーから盗ったスポーツバッグにお気に入りの服や小物を隙間なく詰め込む。
必要最低限にまとめた筈なのに、あまり余裕が持てそうにない。
詰め込み過ぎて、秘密で購入した上級呪いの本が飛び出した。

静まり返った朝のプリベット通りに本が床に落ちる音が響く。
否、そう感じただけで実際に響いたのはこの部屋だけだ。

けど、ハリーは起きてしまったらしい。
振り返るとベッドから上体を起こした弟と目が合った。
寝惚け眼を擦りながら時計の文字盤を確認する。


「なに……?今の音」


俺はさり気無く本を隠し、なんでもないと返答した。
なんでもない筈ないのに寝起きのハリーは疑問を抱く事はない。


「どこか行くの?」
「昨日も話したとおりだよ」
「あー、友達の」
「そう。夏休みはずっと泊まるつもりだから」
「……へぇ、そう。行ってらっしゃい」
「行ってきます」
「できれば九と四分の三番線がいいけど……ホグワーツで会おうね」


苦しげに寝返りを打つハリーを残し、俺は部屋をそっと抜け出す。
上級呪いの本はバッグに入れるのを諦めて両手で抱えることにした。
足音をたてないように、そっと階段を下りる。

リビングに入り俺は真っ先に暖炉へと駆け寄った。
ドラコから聞いた説明では、火は点けなくても良いらしい。

革袋から緑色の灰を掴み、黒く焦げた薪へと投げつける。
すると灰はひとりでに燃えて緑色の炎に姿を変えた。
近くに寄っても熱気は感じない。


「……これが、魔法……」


驚きと感動が入り交じった心境のまま緑炎に足を突っ込んだ。
体を炎が舐める感触はするが、暖かいだけで火傷するほどではない。

魔法は本当に素晴らしい。


「……マルフォイ邸!」


叫んだすぐ後、巨大な穴に渦を巻いて吸い込まれるような錯覚に陥った。
高速で回転しているのか酔いそうになる。

早く止まれ、終われ。
絶叫系のアトラクションはあまり好きじゃない。
誕生日に友人の奢りで行った遊園地のものは、特に。

と、突然体が前方に倒れた。
マルフォイ邸に到着したらしいが……様子がおかしい。

上質な絨毯にうつ伏せに倒れて、目の前の大人たちを見上げた。
マルフォイさんの他に頭部をターバンで隠した男がいる。
漏れ鍋で俺たちと唯一握手をしなかった男だ。

名前は確か――クィリナス・クィレル

ホグワーツで“闇の魔術に対する防衛術”を教えている教授だ。
そんな名誉ある職に就いている彼がどうしてマルフォイ邸に?
どうしてどもってない?

マルフォイさんもクィレル教授も暗い顔だ。
が、俺に気付くと人当たりの良さそうな笑みを浮かべた。


「ようこそ、ブルー・ポッター」


寒気がした。
なにをされたのかは分からない。
だが次の瞬間、俺の意識は確かに暗闇に放り出された。


(回想の人影)

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