ぎゃくせつ

□2、達磨さんが転んだ
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「ハグリッド、いい加減スクイブの意味を教えてくれない?」
「ん?あー……うん」


現在地はロンドン。
地形の関係から“霧の都”と呼ばれる、イギリスの首都だ。
観光名所もデパートも充実している。

手紙に同封されていたリストの学用品を買うため、ハグリッドはハリーと俺を連れて来た。

魔法使いの店に行くのだと彼は言う。
確かに築二百年の建物はざらにあるが……魔法関連の怪しい店はない。
――とも言い切れないか、イギリスだし。

繰り出される俺の質問に微妙な答え方をしつつ、ハグリッドはあまり目立たないパブの前まで来た。
薄汚れていて別の意味で怪しげだ。

ハグリッドに中へと促され眉を寄せつつ入店した。
彼は有名だと言ったが、店内は生暗く古臭い。
いや、イギリスらしい。


「ハグリッドか」


入ってすぐに、バーテンの老人がハグリッドに気付いて微笑みかけた。
天井から吊されたランプの明かりで老人の髪のない頭が光る。
俺の後ろでハリーが身体を震わせた。


「旦那、いつものやつかい?」


老人がグラスに手を伸ばして言う。


「トム、だめなんだ。ホグワーツの仕事中でね。ほら入学は今年だろ」


ハグリッドがそう言うと店内は水を打ったように静まり返った。
斜め後ろでハグリッドに背中を叩かれたハリーがバランスを崩し、俺に掴まる。


「ブルー・ポッター、ハリー・ポッター……なんたる光栄……」


老人はカウンターから出てきてハリーと俺の手を半ば強引に握った。
握手のつもりらしいが、求められる方からすれば奇行極まりない。
正直、怖い。

けど、まあ、それだけ有名で特別ということだ。

派手な髪の魔女と握手をしながら内心で笑む。
これはもうヴォルデモート様々だろう。

ああ、そうだ。
これだけの数の魔法使い、分かる奴もいるかもしれない。
なるべくお人好しそうな奴に訊いてみよう。


「すいません、少し訊きたいことかあるんですけど」
「ああ、なんだ」


先程まで話していた友人を待たせ、魔女は俺に向き直る。
思っていたのとは違い聡明そうな顔立ちだった。
失敗した。


「あの、スクイブという言葉の意味を教えてくれませんか?」
「魔法使いのくせに知らないのか――」
「スクイブというのは魔力が制御できない落ちこぼれの魔法族のことよ」


魔女が答えようとするのを、その友人が横入りして遮った。
暫く言い争いになりそうだとその場を離れる。

それにしても、あの魔女、さっきなんて言った?
スクイブは魔力が制御できない魔法族だと?
俺が出来損ないだとでも言うのか?

ふざけるな。
そんなものマグルと一緒だ。

俺は特別だ。
いつだってハリーなんかよりも優秀で皆に好かれる。
ダドリーのお下がりも上手く着こなしてるから女子にも人気があって……。

叔父さんたちが欲しいものを買ってくれなくても構わなかった。
誕生日には同級生の誰かしらがプレゼントしてくれたから。

それを羨ましそうに、指を咥えて見ているのはいつもハリーだったのに!
どうして兄の俺が弟のアイツの下にならなければならない!?
兄の方が優れているのに!!

ハリーが妬ましい。
今まで面倒を見てやったのに仇返しされた。

口の中が苦いもので満たされた。


(兄<弟)

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