ぎゃくせつ

□26、手品
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絶句した。
この孤高の支配者は本当に俺の身を案じていたらしい。
しかも素面で、だ。

酒に酔ったうえでの間違いならまだ分かる。
本気?そんなの信じられるか。

絶対に俺は嫌われている。
愛だの恋だのに現を抜かして、秘密の部屋に攫われてしまった。
しかもその感情を帝王と先輩の二人に向けているのだ。

心の底から思う。
死ねば良かったのに。


『疑うな、聞け』
「闇の帝王に良心なんてありえない」
『頑なだな。嫌いではない』
「敵に拷問されても味方の情報を話さないからですか?」
『ブルー』
「……すみません、少し疲れてるんだと思います」


やはり人間不信だな、と帝王。
だから、貴方に対してだけです、と俺。
彼がくつりと笑った。


『覚えていないのだな、お前は数時間前にも一度目を覚ましているぞ』
「はい、覚えてません」
『見舞いに来ていた奴らへの、お前の態度ときたら……』


サーっと血の気が引いた。
嘘だと謂うためには、サイトテーブルのフルーツを無視することになる。

在る物を否定するなんて、できるものか。


「お、れ……」
『無意識ではあるまい。友人の誠意さえ疑っていた』


そんなにショックか?
俺の髪を梳きながら帝王が囁く。
黙ったまま首を縦に振った。


『安心しろ、俺様が治してやる』
「記憶を消すんでしょう?」
『ああ。“先輩”との楽しい日々から今のやり取りも全て、な』


そうでなければ、俺はまともな生活を送れなくなる。
ヒトとしてダメになってしまう。

けれど、消してほしくない。
せめて今のやり取りだけは失いたくない。
帝王の優しさを見す見す手放すなんて嫌だ。


『……いい、だろう』


意外なことに、帝王は俺の意見を聞き入れてくれた。
安堵を超えた安堵に胸を撫で下ろす。

話は纏まった。
社会復帰するためにはリドル先輩を忘れなくてはならないのだ。
過去の彼より、現在の彼を選ばなくてはいけない。

ほとんど選択権のない二者択一。
真綿で優しく優しく首を絞められていく。

差し出されたユニコーンの血を一気に飲み干した。
魔力が体内に満ち始めたが、片っ端から帝王に奪われる。
俺自身の魔力まで吸われているようだ――。


『Obliviate』


(孤影)

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