ぎゃくせつ
□26、手品
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次に目覚めた時、俺の頭はすっきりしていた。
先程の“優しい闇の帝王”もちゃんと覚えている。
ただ、記憶の所々に穴が空いているだけだ。
俺が起きたのは昼頃で、ちょうど部屋に人がいた。
マグル界とは異なった風貌の看護婦だ。
どうやら此処は聖マンゴ病院で、彼女は俺の担当らしい。
つい先日までの態度が一変した少年に驚きを隠せないでいる。
動揺は声帯をも振るわせていた。
「夕方頃、ホグワーツ校からミスター・ダンブルドアがいらっしゃいます。ご家族やご友人の方も同伴されるそうですよ」
「本当ですか?嬉しいなぁ」
少しも嬉しくない。
頼むから放っておいてほしい。
そんな細やかな願いも叶わず、正午を過ぎた頃に担当の看護師が来客を告げた。
やって来たのはダンブルドアとハリーとドラコ、ハーマイオニー、ロン。
……そして赤毛の少女。
個室のためあまり狭くはならなかったが、それでも息苦しい。
それと、校長が来て寮監が来ないのは何故だ。
「兄さんっ」
「ブルーっ」
ほぼ同時に二人から熱い抱擁を受けた。
とても懐かしい温もりだ。
生きている人間の感触。
話によると、彼らは前回のお見舞いからずっと俺のことを気にかけていたらしい。
それを聞くと抱擁を無碍にもできない。
「大丈夫、もう俺はいつも通りだから」
ハリーに対してと、ドラコに対しての間くらいの口調で話しかける。
曖昧な話し方は神経を使うが、この程度。
どうということはない。
優しく笑いかけると二人は緊張の糸が切れたように穏やかな表情になった。
温かい人間の体温が離れていく。
「ブルー、お癒者様から怪我の経過は?」
「ごめん、ハーマイオニー、今日起きたばかりで会ってすらないんだ」
「あ、そう……」
「その様子だと君達はもう聞いたみたいだね」
しかも、あまり良くない。
赤毛の少女の肩が揺れた。
記憶に穴の開いた俺にはその理由が分からない。
説明されるなら帝王よりもハリーたちの方が、ボロも出にくいだろう。
「担当の看護師から聞いたけど、粉砕呪文だって?骨しか粉々にならなかったのが奇跡だ」
「あ……」
空気に溶けてしまいそうなほど小さな声。
それは赤毛の少女から発せられた。
「えっと、君はロンのご姉妹……去年はいなかったよね、妹か」
「ぁ、私っ……えと、あの」
「妹のジネブラ・ウィーズリー、ジニーって呼んであげて」
ロンが俺に話を振られてしどろもどろになったジネブラのフォローに回る。
妹を助けてやる様子が兄らしくて、微笑ましい。
かつては俺もこうだった。
「よろしく、ジニー」
(縁)