今、半透明

□遠人依存
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  episode20.
    (( 離れている人ほど ))





新宿。
あれから一言も話すことなく、私はシズちゃんに連れられた。


ただ力強く握られた彼の手から、苛立ちが伝わった。



「なーんで、シズちゃんが俺のマンションの前にいるのかな?」


臨也のマンションを目の前にした頃。今にも扉を蹴り破りそうなシズちゃんを、流石に止めようとしたら、後ろから少し苛立った声の臨也がいた。


「…お前を殴りに来たからに決まってんだろ」

まずい。これは非常にまずいぞ。
と言うか私はとても気まずい状況にいると思う。シズちゃんと臨也の間にいるみたいな。


「なんで、殴られなくちゃいけないのかな?」

「ムシャクシャしたからだ」

「…いい年してそういうジャイアニズム100%な台詞はよくないよシズちゃん」

「うるせぇな。あえて言うなら…手間が怪しいからだ。今回の辻斬りの件……テメェはどこまで絡んでやがる?」


ストレートは物言いに、臨也は呆れたような表情を浮かべた。首をふりながら「何で俺が絡むのさ」と返す臨也も相当苛立っているようだ。



「テメェのせいで、美影がWまたW危ねぇ事に巻き込まれてんじゃないだろうな」

『っ、シズちゃん違…!』


心臓がズキリと痛んだ。

その言葉を聞いて、臨也は清々しいほど黒い笑みを浮かべた。「へぇ…」と呟きながら初めて合った臨也の目からは、まるで冷凍ビームを発したみたいに凍りついた。まるでメデューサみたいな。



「俺が何かを仕組んだって言いたいんだろうけど、言いがかりはやめてくれないかなぁ」

ため息まじりに臨也が言った。そしてまた爽やかな、黒い笑顔を見せた。


「それより、さっきから美影の腕、強く握りすぎじゃない?はなしてあげなよ、痛そうだよ」


臨也に言われてハッとしたシズちゃんは、込めていた力を緩め、すぐに私の腕を放した。

放された私の腕は真っ赤に染まっていた。それを見たシズちゃんは小さく舌打ちをし、拳を握りしめていた。


そしてマンションの前にあるガードレールをいても簡単に引っこ抜いた。これで臨也をぶん殴る気か。

「辻斬りの件も美影のことも俺が仕組んだ?酷い言いがかりもあったもんだね」

少し冷や汗を流し、ニコリと笑う臨也の手元にはナイフが握られていた。いつの間に。
臨也はナイフをシズちゃんに向け、小さく笑った。



「美影を守るつもりなんだろうけど、それが逆に美影を苦しめてることにいい加減気付いたらどうなの、…シズちゃん」


淡々と放たれた言葉に、私は冷や汗を流した。


「臨也、何でそんなこと…私は別に!」

「だったらシズちゃんにでも保護してもらう?シズちゃんにとってはその方が良さそうだけど」

「それとこれとは話が違う!」

「何で?だってシズちゃんは俺といるから危ない目に合ってるって思ってる訳であって、美影を俺と一緒にはしておけないって言いに来たんじゃなぁい?」

「っ・・・」

「シズちゃんは美影がW大切だからこそ助けたいWんだろうね。で?美影はどうしたいの?」



どうして臨也はこんなに悪性なんだろうか。俯いた顔をあげれば、彼は楽しそうに笑っていた。


私のことが嫌いなんだろうか。

それとも私を、ただの飼い猫として見ているだれなのかも知れない。


どっちにしろ、私は臨也にはW大切にW、W愛されていないWだろう。


シズちゃんにはW大切にされているWって・・・痛いほど伝わるのに。


だから私は、







    ここから離れなれない



(好かれるのが、痛いんです)



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