空白昼夢

□涙を流すことさえ許されない
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  第十五話
   ー 涙を流すことさえ許されない ー






夏目とわかれた後、私は夏目に見せたかった場所へと一人でやってきた。用事って言うのは、本当はこの場所を見せたかったんだけどなぁ。


目の前には小さな湖。綺麗な青で染まった水に、周りは自然いっぱいだ。まさに神秘的って言葉が合う。
ここだけは昔と変わらない。



『次、いつ晴れるかな…』


今日は天気が良かったから。今日見せたかったのだけれど。


天気がよくて空が青い日は、湖の青さが増した。太陽が眩しい日は、湖の輝きが増す。

まさに今日が絶好日和だった。



『ま、焦ることないか。いつでも会えるんだし』


目の前の水をすくってみせた。
これからも、ずっと、変わりない日々が続くだろう。そう信じていた。




「こんにちは。先ほどぶりだね」


ふと後ろから声がした。誰だろう、ここには滅多に人も妖も来ないのに。振り返ってみると、さっき夏目の家にいた男の人がいた。



『あ、ああ…。どうも。えっと』

「名取って言うんだ。夏目の友人だよ」

『私は柳瀬ライア。よろしく、名取さん!』


名取さん。夏目の友人、きっといい人なんだろうな。それにしても笑顔が眩しい人だな。

名取さんは笑顔のまま話続けた。



「夏目に女の子の友達がいたなんてビックリしたよ」

『あ、私が女って分かるんだ。夏目は初め、男だと思い込んでたのに』

「わかるさ。俺にはね。…君が人間じゃないことも」



その瞬間、名取さんから笑顔が消えた。

あんなに輝いていた笑顔なんてどこにもなくなっていた。ただ黒い雰囲気が漂っている。


「あまり妖の気配もしないし、本当に人間みたいだから普通は気付かないだろうけど」


目がじわりと熱くなるのが感じた。


「何の目的で夏目に近付いている?」


違う。
私は、ただ、そんなんじゃない。

この人の目が見れなかった。見てしまったら何か強い圧力が私をおし潰してしまいそうだったから。ただ、何か怖くて、目が熱くて。


『………』

「人間か妖かも分からないくらいだから君は妖力が強いんだろう。…一応、私は祓い屋をしていてね」

『っ、…!』


祓い屋…。
その言葉を聞いた瞬間、思わず目から何かが落ちそうになった。

嫌だ、祓い訳…、違う、私は、



「夏目に何かしようもんなら、君を封印する」



それだけを言って、名取さん…祓い屋はこの場から去っていった。

名取さんが祓い屋…。
正直、祓い屋は少し、嫌いだ。




『っ、あはは…』


ただじわりと熱く目を必死に抑えた。頼むから、落ちないで。

笑ってみたけど、やっぱりその笑顔は歪んでいたのかも知れない。






   涙を流すことさえ許されない

(私は一体、)
(どうすればいいんだろう)


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