W
□満月〜Hear the MOON VOICE
1ページ/1ページ
目が醒めた。
カーテンのすきまから、細く光が入ってくる。
少しだけ、幸せな夢を見たような、そんな感触だけがあって、逆にそれが苦しかった。
狭いベッドで、俺は毛布のなか、膝に顔をうずめるようにして身体を丸める。
……もう。
もう、あのときの夢を見て、苦しくて息ができなくて飛び起きる、そんなことも減ったから。
もう、時々ではあっても、かすかに甘く、楽しかったときの夢を見ることができるようになったから。
これが、忘れていくことなのかと。
それでも、まだ慣れることはできなかった。
ひとりきりの夜に、まだ。
遠いかすかな記憶のなかでは、確かにひとりで過ごした夜もあったはずなのに。
雨が降ってたっけなぁ、雷が鳴ってたっけなぁ。
……じゃぁないか。
ここに来る前、フィリップに会う前には、おやっさんと会う前には、俺はひとりでも平気だったのに。
それどころか、誰かと同じ空間で過ごすことにこそ慣れなかったのに。
誰かと? ……フィリップと?
小さく息を吐いて、膝から顔を上げる。
ふと、カーテンのすきまから入ってくる光が気になって、毛布にくるまったまま、腕を伸ばしてカーテンを開けた。
瞬間。
部屋に満ちる月のひかり。
思いもよらなかったそのひかりに目を奪われて、そして何度か瞬きをして、俺は身を起こした。
ちょうど、まるで計ったかのように、自分のデスク脇の窓の外に月が見えた。
まるく、真円を描くひかり。
……満月?
夜の闇と月のひかりの、くっきりとしたコントラストが眩しくて、ふらり、と何かに惹かれるように俺はベッドから下りた。
窓のそばに立つと、ひかりが強くなった気がした。
いつもより強く、大きく光っているように見えて、それは気のせいではないように思えて、少し苦しいのが消えた。
フィリップみたいだ。
何故だろうか、なんとなく思った。
密やかに強く、ひかり放つ、ルナ。
ただそう思っただけなのに、胸のなかが優しくなった。
フィリップみたいだ。
もう一度、今度はなんとなくじゃなく、強く、心のなかでそっとつぶやいたら、少し笑いまで漏れた。
……なんだフィリップ、ここにもいるんだ、お前。
手を伸ばせば届きそうなほどの強さで、大きさで、明るさで、密やかにここに。
「忘れてねぇじゃん俺、全然」
忘れさせてくんねぇじゃんお前、全然。
ああそうか、だから。
だから相棒なのかと。
俺は月を眺めながらそう思った。
いつまでも飽きず、眺めながら。少しずつ位置を、少しずつ形を、少しずつ変えてゆく、ルナを。フィリップを。
それでいいんだ。
ずっと、これで。
Fin./20110319 in Full-Moon Night