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□満月〜Hear the MOON VOICE
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 目が醒めた。
 カーテンのすきまから、細く光が入ってくる。
 少しだけ、幸せな夢を見たような、そんな感触だけがあって、逆にそれが苦しかった。
 狭いベッドで、俺は毛布のなか、膝に顔をうずめるようにして身体を丸める。
 ……もう。
 もう、あのときの夢を見て、苦しくて息ができなくて飛び起きる、そんなことも減ったから。
 もう、時々ではあっても、かすかに甘く、楽しかったときの夢を見ることができるようになったから。

 これが、忘れていくことなのかと。

 
 それでも、まだ慣れることはできなかった。
 ひとりきりの夜に、まだ。
 遠いかすかな記憶のなかでは、確かにひとりで過ごした夜もあったはずなのに。
 雨が降ってたっけなぁ、雷が鳴ってたっけなぁ。
 ……じゃぁないか。
 ここに来る前、フィリップに会う前には、おやっさんと会う前には、俺はひとりでも平気だったのに。
 それどころか、誰かと同じ空間で過ごすことにこそ慣れなかったのに。 
 誰かと? ……フィリップと?

 小さく息を吐いて、膝から顔を上げる。
 ふと、カーテンのすきまから入ってくる光が気になって、毛布にくるまったまま、腕を伸ばしてカーテンを開けた。
 瞬間。

 
 部屋に満ちる月のひかり。


 思いもよらなかったそのひかりに目を奪われて、そして何度か瞬きをして、俺は身を起こした。
 ちょうど、まるで計ったかのように、自分のデスク脇の窓の外に月が見えた。
 まるく、真円を描くひかり。
 ……満月?
 夜の闇と月のひかりの、くっきりとしたコントラストが眩しくて、ふらり、と何かに惹かれるように俺はベッドから下りた。
 窓のそばに立つと、ひかりが強くなった気がした。
 いつもより強く、大きく光っているように見えて、それは気のせいではないように思えて、少し苦しいのが消えた。

 
 フィリップみたいだ。

 何故だろうか、なんとなく思った。
 密やかに強く、ひかり放つ、ルナ。
 ただそう思っただけなのに、胸のなかが優しくなった。

 フィリップみたいだ。
 
 もう一度、今度はなんとなくじゃなく、強く、心のなかでそっとつぶやいたら、少し笑いまで漏れた。
 
 ……なんだフィリップ、ここにもいるんだ、お前。
 手を伸ばせば届きそうなほどの強さで、大きさで、明るさで、密やかにここに。
「忘れてねぇじゃん俺、全然」
 忘れさせてくんねぇじゃんお前、全然。
 ああそうか、だから。
 だから相棒なのかと。
 俺は月を眺めながらそう思った。
 いつまでも飽きず、眺めながら。少しずつ位置を、少しずつ形を、少しずつ変えてゆく、ルナを。フィリップを。
 
 
 それでいいんだ。
 
 ずっと、これで。

 

 
 
Fin./20110319 in Full-Moon Night





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