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□シアワセパレード
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 そのクリスマスバージョンにデコレイトされたアトラクションから出てきた瞬間、世界が(……空が?)一瞬だけ光り、その光を追いかけるように、どん、と身体の内側を響かせるような大きな音がした。


 出口から外へ出ると、思ったよりも夜が深かった。闇が濃い。
 アトラクションは確かに少し物足りなく感じたけれど、高い天井とクリスマスツリーといろいろな国の言葉で歌われるクリスマスソングは、見たことのない幸せな国のようだった。屋内を流れる河を舟に乗って進む。水の匂いと湿気。行ったことのない世界。
 その余韻にぼんやりとしていた瞬間だった。その音にびくっと身体を震わせて、近くで歩みを止めた翔太郎のシャツの袖口の端を思わず握りしめる。
 ……なんだったんだろう今の?
 アトラクションの前にたくさんのひとが集まり、空を見上げていた。その音が響き渡って消えた後、満ち足りたような終わってしまったのが切ないようなそんな顔をして散っていく人影。
「……あぁくっそまずった!」
 小さく呟いて、空を仰いだ翔太郎に、どうかしたのか、と声をかける。
「今のはなんだったんだい?」
「あぁあ……もう踏んだり蹴ったりだ……」
 僕の言葉が聴こえていたのかいなかったのか、アトラクションの出口に立ち止まっていた翔太郎は、後ろからのひとの波に気づいて歩き出す。行こうフィリップ、と声をかけられる。袖口を握りしめていたことに今更気づいて、僕はそっと手を離した。亜樹ちゃんと照井竜は、もうすでに少し離れた場所にあるメリーゴーランドの前で、僕たちに手を振っていた。亜樹ちゃんの頭につけられたカチューシャの赤い水玉のリボンが闇の中でも明るく見える。
「翔太郎?」
「……あぁ悪い。結構ショックが……」
「翔太郎?」
 人波を避けて、翔太郎は突然足を止めて、あ。と呟いた。……あ?
「ああぁあああもう!」
 突然声を張って、翔太郎がしゃがみこんだから思わずつられて僕もしゃがみこんだ。
「最悪だ。せっかくだったのに!」
 しゃがみこんだまま不貞腐れたようにそう言う。今にも地面に指でのの字でも書きそうな勢いだ。おそらく久しぶりのテーマパークでテンションが上がっているとはいえ、あまり見たことのない、子どものような不貞腐れ方に笑みが漏れそうになる。でも。
「翔太郎、わけがわからない」
 一体何がショックで何が最悪なのか、説明もなしにしゃがみこんで、本当にわけがわからなかった。
「……さっきさ、俺たちがアトラクション行ってる間に花火上がってたんだよな……」
 ……花火? あぁさっきの光と音は花火だったのか。
 僕は何よりもそのことに納得したけれど、何故翔太郎がしゃがみこむほどショックなのか、未だにわからなかった。花火?
「翔太郎、花火が観たかったのか?」
「なわけねぇだろ!」
 僕の言葉をさえぎって、やっと顔を上げた翔太郎は真正面から僕の顔を見た。
「そんなわけねぇだろ」
 だったらどうして。
 そんな顔をしたんだろう、僕は。だったらどうしてそんなにショックなんだ?
「……お前に見せたかったんだよ」



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