短編

□反対理論
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ただ、単純に綺麗だと思った。




朱色の髪を血で真っ赤にして、寸分の狂いもなく相手の急所を射抜き何人もの人間を殺していく様は狂気としかいい表わせれないものだったけど、それでもあたしは彼に見とれてしまった。

あたしの眼には、舞う赤が花弁に見えて仕方なかった。

もっと近くで見たい、そう思っている半面、使命という重圧が肩にのしかかる。

だって彼に殺されたのはあたしの仲間で、あたしたちは彼を殺しにきたんだから。

殺された仲間を背景に敵を美しく思うなんて、とうとうこの鉄の匂いにやられてしまったのかもしれない。


それでは困る。まだ死にたくない。


だんご虫が蹂躙しているようにクラクラする頭を、刀を持っている反対の手で軽く抑え、あたしは彼の方へ眼を向けた。

するとちょうど彼もあたしの存在に気付いたみたいで、視線が交わった。


「―――っ」


目を見開いて、猟奇的に口角を上へと上げた彼の表情に、たまらず息をのんだ。

しかしそんな彼の表情は一瞬で崩れ、彼は効果音が付きそうなくらいニコッと笑った。



「まだ残ってたんだ・・・って君、女の子じゃん。まいったなぁ、俺、女は殺さない主義なんだ」

「・・・そんな嘘信じるとでも思ってるの。第七師団団長の神威サン」

「嘘じゃないさ。だって女は強い子を生むかもしれないだろう?」


そういうや否や、あたしに向かって神威は腕を振り下ろした。

なんとか刀で受け止めるが、


(力が、桁違いに強い・・・っ)


そういえば彼の種族の『夜兎』は怪力なんだっけ。

もともと女のあたしが神威の拳を受け止めれたことだけでも奇跡なのに、こう拳が重いとあと何発かで刀が折れてしまうのは容易に想像できた。

冬だというのに、喉元に汗が伝う。

一方神威は、あたしが自分の一撃を受けたらしく、貼り付けていた笑みを少し崩した。


「へー・・・びっくりしちゃった。君、真撰組の『たいちょう』ってやつ?」

「っ、ざ、んねん。あたしは一番隊副隊長、よ・・・!」


神威の眼の色が変わった。


「ふーん・・・俺、少し真撰組ってやつに興味わいてきちゃったなー。ねぇ、君の隊長さんはどこ?」


沖田隊長の顔があたしの頭をよぎる。

ここに来る前、滅多に褒めてくれない隊長が、


『てめーは俺の認めた女だ。大丈夫。頑張ってきなせェ』


そう言ってほほ笑んで、あたしの頭を撫でてくれた事を思い出す。

すごく、嬉しかった。

雑用ばかりやらされたけど、虐められてばっかだったけど、本当は優しい沖田隊長があたしは大好きだったんだ。

今沖田隊長の居場所を言えばあたしは助かるかもしれない。

じゃあ、隊長は・・・?




黙りこむあたしに神威は自身のアホ毛をピョコンっとさせ、


「あらら、黙っちゃった。・・・しょーがない、自分で捜すかァ」


と呟くと、ちょうど屯所のある方向へ歩き出した。


いくら強い沖田隊長でも、こんな化け物相手に勝てるはずがない。

沖田隊長が、死んじゃう!!


「待って!!」


気付いたらあたしは神威の背中にしがみついていた。

怪訝な顔をして後ろを向き、神威は深いため息をつく。


「・・・離してよ。さっきはああ言ったけど、邪魔な女は殺しちゃうぞ?」


恐怖なんて、微塵もなかった。

あたしはもう無我夢中で、神威にしがみつく腕を強める。


「行かせない!あの人のところには絶対に行かせないんだから!!」

「・・・ふっ」


さっきの氷のように冷たい顔から一変。

あはははははは!と神威ははち切れたように笑いだした。


「え」


ぽかーんとするあたしの腕を優しくほどいて、神威はあたしに向き直った。


「俺相手にそんなことする女、初めて見たよ。君面白いね」


そう言うと、神威はあたしの目線に合うようにかがみ耳に口を近づけ、思いもよらなかった事を言った。


「俺と一緒に行こう。君が俺と一緒にいてくれるなら、君の隊長さんには手を出さないであげる」

「だれがっ・・・んン」


突然口で口をふさがれ、声が途切れた。

目を開けると、神威の顔がすごく近くにあって羞恥に顔が一気に熱くなる。

離れようとしても、力の差は歴然だった。





*





たっぷり三分間の口付けをし終わった神威は、妖艶に唇を舐めた。

あたしと言えば薄くなった体内の酸素を吸い込むことに必死で、肩で荒く息をする。

そして、ボーっとなった頭でされたことを思い出してみた。

そう、神威はあたしにキスをしたのだ。


「――ぁ」


あたしは夢中で口元と、溢れてくる涙を拭った。

最悪最悪最悪・・・!初めてが敵となんて。

でも神威はあたしを見下ろして笑みを深いものにした。


「かわいい顔して・・・ゾクゾクする」


そう言ってニヤァッと笑う神威に、いよいよ身の毛がよだつ。

未だ溢れ出てくる涙は、もう何の意味があるのかわからない。

ただ、神威の目が、雰囲気が、言葉が恐かった。

もう涙を拭う気力も無くなったあたしに、神威はそっと手を差し延べた。


「さぁ、行こう」













拒否権なんて、ないくせに。



兎は捕食する


(なまえの野郎、おせーな)


−−−−−−−−−−−−−−−

ただドSな神威様を書きたかった。

友情出演:沖田 総悟



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