短編
□大人で子供な先輩へ
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「うわぁ。すごいすごい」
私はフランの意志を尊重するつもりで、戦いを少し離れたところにある木の上で見ることにした。
そして、改めてさっきフランが言っていたことを思い出す。
「別に私、フランの事子供扱いしてないんだけどなー・・・?」
もちろん、頼りにならないとも思っていない。
フランはあの若さで幹部入りしたんだもん。実力不足なわけがあるはずない。
それに今現在、フランは圧倒的な強さで敵を翻弄していく。
私はフランのこと、強いって思ってる。
なのにフランは普段出さない声で私に怒鳴った。
・・・正直、ちょっとショック。
改めて「普段怒らない人が怒ると怖い」ということを再確認する。
そんな考え事をしているうちに、いつの間にか戦いは終わっていた。
こっちを見るフラン。帰ろう、という意味なのかな?
でも――
「・・・っ」
どうしてだろう。
戦場で屍の上に返り血を被っていても平然としているフランに、泣きたくなった。
× × ×
「あのさ、フラン」
ホテルに向かっている最中、なまえ先輩が急に止まって言った。
「フランは、戦うの好き?」
「え・・・。うわっ」
突然そんな事を言われてミーは少し慌て、後ろ向きに歩いていたからか木の枝に後頭部をもろに当てしまった。
「うぅ、痛いですー・・・」
「ご、ごめん」
ミーの不注意で起きたことなのに、なまえ先輩は急いで駆け寄ってきてくれた。
そして、ミーの頭をいつものようになでようとして、
「ぁ・・・」
ひっこめた。
その後のばつの悪そうな顔を見ると、きっとさっきのこともあってミーが嫌がると思ったのだろう。
これでいい。
これでいいんだ。
でもなまえ先輩に撫でてもらえなくなると思うと、心臓が軽くなる錯覚に陥った。
ミーが黙っているからか、なまえ先輩も黙りこみ気まずい空気が流れる。
そのとき。
「オイ見ろよっ。可愛い子発見!」
「うわホントじゃん!!・・・でも男連れじゃね?」
「構わねーし!オーイ」
そんな声と共にいつの間にか近くにいた汚い野郎どもがミー達に近づいてくる。
まあ、正確にいえばなまえ先輩にだが。
律儀ななまえ先輩はさっきの会話が聞こえていないのか、野郎どもに振りかえった。
「はい、なんでしょう?」
「やっぱ正面から見ると更にかわいいねー♪」
下心丸出しの眼つきでなまえ先輩を下から舐めるように見る男に、さすがに鈍いなまえ先輩も男を訝しげに見やる。
「なんなんですか?用がないなら私達はもう・・・」
「そんなこと言わないで!ねっ」
「なっ、ちょっと!」
男が強引になまえ先輩の華奢な腕を掴む。
なまえ先輩なら一般人の男の一人や二人、容易に振り払えるだろう。でも、
ここが我慢の限界だった。
「誰に触ってるんですかー・・・?」
「ああん?・・・うぁ!!」
「・・・!」
威嚇する男の胸ぐらをつかみ、思いっきり地面に投げ捨てる。
すでに男の顔は恐怖でぐちゃぐちゃに歪んでいたが、知ったことではない。
馬乗りになり、再度胸ぐらをつかみながらミーは男に吐き捨てた。
「今度・・・」
「ヒイ!!」
「今度なまえ先輩に触ったら、その腕斬り落としてやりますから」
ミーの言葉に心底震え上がる男。
いや、それよりもミーのだす殺気に充てられたからだろう。
そうして男は、
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」
と情けなく叫んで、這いつくばって逃げていった。
その仲間も慌てて逃げ出す。
その様子に呆れて溜息をついて、なまえ先輩に向きなおす。
わー、ポカーンとしている顔もかわいいなー・・・って。
「そうじゃなくて!」
「ふえ!?」
「何勝手に触られてるんですか!仮にも暗殺部隊の幹部でしょう!?」
感情が高ぶってそうまくしたてるミーに、なまえ先輩の顔がムッとなる。
「か、仮にってなによ!一般市民に手ぇ挙げるわけにはかないじゃない!!大体フランは短気すぎ!!」
「なっ、じゃあミーが悪いって言うんですか!?」
「!!そうは言ってないよフランのわからず屋っ」
「鈍感!」
「蛙!」
「チビ!」
「デブ!」
「バカ!」
「アホ!」
次々と行きかう人に目もいかない。
低レベルな口喧嘩は延々と続き、いつの間にか日は落ちて辺りは暗くなっていた。
二人でハアハアと肩で息をし、ついに
「もうやめましょうかー・・・?」
「ん・・・」
そこでミー達の口喧嘩はようやく終止符を打つ。
なんで任務より疲れなきゃいけないんだ。
まだ喧嘩を続けてる手前気まずいが、一応こっちも早く寝たいので声をかける。
「・・・もうホテルに戻りましょーか」
「ん・・・」
「?」
ふと先輩を見ると、返事の割に足は動いてないし顔は青白い。
てゆうかなんで涙目?
なまえ先輩の視線の先には、ホテルに行くためには必ず通らなければいけない森。
「あ」
それで全ての合点がついた。
「なまえ先輩って、霊的なものが苦手なんですねー」
「え、ええ?そんなこと、ないよ」
「いや、思いっきり声上ずってますから」
意外と言えば意外だったが、なまえ先輩も一応女の子だし、仕方ない。
ミーは紳士なので。
「手、繋ぎますー?」
「え・・・」
そう言ってなまえ先輩に手を差し出す。
でも、
「あーうー・・・」
何やら奇妙なうめき声をあげて、なかなか手をとろうとしない。
ああそうですかそうですか。
――そこまでミーは頼りないんですか。
なんだか妙な脱力感に襲われ、(脱力なのはいつもですけどー)ミーは不機嫌な顔を隠そうともせず手を下して森に歩きだした。
もうやだ。泣きそう。
そう悶々と思っていると、
――キュッ
「!?」
服の裾に違和感。
そこをたどった先にあったのは真っ赤な顔をしたなまえ先輩。
「服の裾借ります・・・」
いや、なんかその言葉変。
そう言いたくても、
「・・・っ」
喉になにか詰まって、声にならなかった。
顔が熱い。心臓がドキドキと煩い。
いや、それよりもなによりも。
なまえ先輩とミーどちらも顔が赤いという事実が、たまらなく嬉しかった。
もう子供とか大人とかどうでもいい。
「そ、それじゃ行きましょう、か」
「う、うん」
いつもと変わらない任務。
得たのは多額の報酬金と――
「・・・なに人の顔じろじろ見てんの」
「いえ、別にー・・・」
なまえ先輩は大人でもなんでもない、ただのプライドの高いお節介焼きだったということ。
同じ目線
(それがたまらなくうれしかった)
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なんか無理やり終わらせた感が
出てますね;;