Oh!furi

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夜、珍しく、阿部からの着信音がなる。

『もしもし。』

「オレ。今、平気か?」

『うん。珍しいね、阿部が電話してくれるの。』

「そーか?・・・そうだな。オレ、ひさしぶりに野球部以外のやつに電話してるわ。」

『(なんだよ、それ!)へー。ふーん。何か用事?』

野球部“以外”ってところが、なんだか引っ掛かって、つい、冷たく答えてしまう。

「用事っつーか・・・・用事なかったら、電話しちゃダメなのかよ。」

『!!・・・・いや、ダメじゃ無いけど。』

なんだ??阿部がおかしい。
だいたい、阿部ってやつは、用事もないのに電話するような男ではないんだよっ!!

「今日・・・栄口に会っただろ?」

『うん。偶然。同じ日直だったー。すごい、ひさしぶりに話したよ。』

「うん、部活の時に、お前の話してたよ。」

『えっ!な、何て??』

「マネジ誘ったら、くいぎみに断られたーって。嘆いてた。」

『嘆くって、栄口くんも大袈裟な。』

「篠岡が頑張ってくれてるけど。やっぱ、一人でマネジってきついだろうしな。」

『そっかぁ・・・・』

「ま、おまえの性格上、マネジなんて無理だろうから、断って正解だわ。」

『ちょっと!何その言い方〜。』


ひさしぶりの電話は、やっぱり大半が野球のことで、しかも、マネジ篠岡さんの話題も(ちょっとだけ)出たりして、なんだか、終始胸の奥がモヤ−ッとした気持ちだった。

『GW、合宿なんでしょ?』

「あぁ、何で知ってんの?」

『栄口くんに聞いた。』

「そっか。」

『超楽しみなんでしょー?』

「・・・まぁ。」

『・・・・メールしてもいい?』

「いいよ。」

『!・・・今日の阿部、やさしいね。』

「はぁ?!なにそれ。つーか、お前、栄口にオレの悪口言ったろ。」

『悪口〜?言って無いよ〜。』

「万年不機嫌。」

『・・・・・・・え〜、言ってないよ〜。』

「今の間はなんだ。間は。」


阿部は電話だと、割と優しい。
意外とおしゃべり。
それは、昔からだ。
電話だからリラックスしてるんだろうか。
いや、あの阿部に限って、電話ごときに緊張とかない、ない。
学校での疎遠ぶりは、きっと、冷やかしたりするのが好きなウザい奴らに見られて、無駄に騒がれたくなかっただけなんだろう。

でも、本当は。

電話じゃなくて、見える距離で、触れれる距離で。

接して欲しかったりする。

そんなこと、付き合い初めの頃は、考えもしなかったこと。
そんな気持ちを自覚すればするほど、だんだん自分の中に「阿部のことが好き」って気持ちが積もっていくのが分かる。
「好き」が多くなればなるほど、気付きたく無いことに気付いていく。

阿部の中の私や、私に対する気持ち(あると信じたいっ)は、付き合い始めの頃と1ミリも変動してないんじゃないか、と思ったりする。
減りもしなければ、増えたりもしていない。
優先順位なんて、今まで気にしたことなかったのに、絶対、1番にはなれないと思い知れば知る程、切望してしまう自分がいる。


阿部の中の1番は、野球で。


今だったら出来たてのチームのことできっと頭がいっぱいで。

『朝連あるんでしょ?早く寝た方がいいよ。つーか、ぶっちゃけもう眠いんでしょ?』

「あぁ、まあ。」

『じゃ、もう、寝なよ。・・・おやすみ。』

「おやすみ。」



ツー ツー ツー



切れた携帯を暫し眺める。
不安や不満が、たった1回の電話で、吹き飛ばされてしまう。
単純だな、と自分を笑う。
阿部の声は、特効薬だ。






でも、その効果は、わりとすぐに切れてしまうことも知っている。




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