Oh!furi

□2
1ページ/1ページ


結局、阿部から、高校初のメールがきたのは、入学して1週間が過ぎた頃だった。

私も素直になって、自分から連絡していれば、もっと早くに受信も可能だったんだろうけど。
1週間がたってようやく届いたメールには、味気ない一文。



送信者:あべ
件名:無題
-------------
おまえ、何組?



となりのクラスだというのに、会わない時は、ホントに会わないもので。
7組の前を通る時に、探してみようと思ってはいるものの、見なれない人たちの中からでは、まだ阿部を見つけだすことができなくて。(彼女としてどーなんだ。)

休み時間とかお昼休みなんかに、遭遇できないもんかと、廊下を気にしてはいるものの、阿部の姿を見たことはない。
おおかた、休み時間を全て睡眠にでもあてているのだろうと、容易に想像はついていた。



宛先:あべ
件名:無題
-------------
8組でーす。
阿部は?



そっけないメールに、同じようにそっけなく返した。
本当は7組だって知ってるのに、なんだか意味もなく張り合って、聞いてみたりして。
送信ボタンを押して、ちょっと後悔。
でも私だけがクラス分けにこだわってたみたいで、なんだか、くやしい。
くだらないと思ってた話題も、阿部から振られると、また別なんだ。



送信者:あべ
件名:無題
-------------
オレは7組。
同じクラスに野球部のやつらがいるから楽。
8組にはいなかったよな、たしか。
何か部活入んの?




『知ってるよ』

思わず、返ってきたメールに声をだして答えてしまった。
もし、8組に野球部の誰かがいたら、顔を合わすことができたのかな〜、と今さらなことを思いながら、返信メールを作成する。



宛先:あべ
件名:無題
-------------
何もきめてないよ。
・・・たぶん帰宅部かな。
やっぱり野球部は終わるの遅いの?




ちょっとくらいは私の事も考えたりしてくれんのかな、と少し心が弾む。
やんわりと、野球部の話に持っていこうとしたけれど、結局、次に返ってきた阿部の「おやすみ」メールで、強制終了となった。
仕方なく、おやすみとだけ返して、ひさしぶりの阿部からのメールを見直してみる。

・・・・なんだろ、この色の無さは。

だけど、一応、彼氏と彼女なんだよね?

心の中で問いかけてみて、空しくなって、携帯を閉じた。


今さらだ。
ほんとに今さらなんだ。
こんな気持ちになるのも、こういう状況も。慣れたもの。
つきあってから、1年以上たつけど、もともと小学校からの腐れ縁なのだ。

幼馴染み、というほどの仲良しでもなかった。
気付けば、同じ小、中学校だっただけ。
クラスも2・3回、一緒になった程度。
うろ覚えだ。
家も校区が同じなだけで、ご近所様なわけではない。
だから、中2の終わり頃に阿部から「つきあって」と告白されたときは、正直驚いた。

え?こいつ私のこと好きだったの?
てか、私は別に特別好きなわけでもないんだけど。

と、相思相愛で盛り上がって付き合ったわけではないので、最初の半年くらいは、ただただ日々が過ぎるだけだった。

もちろん、阿部のことが嫌いなわけではなかった。
中2になって、何年ぶりかで阿部と同じクラスになって、クラスメートとして、自然と、普通に、仲良くなっていったと思う。
だから、「つきあって」と言われて嫌じゃなかったんだ。
だから、「はい」と答えたんだ。

でも、そのことを誰か(クラスメート達)に言いふらすこともなく、今日から彼氏彼女です、とあからさまな行動をとるわけでもなく、それこそ、今まで通り何の変哲もなくクラスメートとしてお互い接していた。
ただ、家に帰ってからメールのやり取りをしたり、とか、ごくたまに電話で話してみたりとか。
若干ではあるが、ただのクラスメートの時にはしなかった事も増えていった。
すぐに3年になってクラスは離れてしまったけど。

『今じゃ、電話なんて1ヶ月に1回あれば良い方だよ。』

思わず出た独り言は、思いのほか愚痴の色を含んでいて、自嘲してしまう。
だったらこっちから電話すればいいじゃん、甘えてみればいいじゃん、ともう一人の私が言うのだけれど、野球のことばっか考えてて、野球中心が生活の今の阿部に、私なんかが入り込む隙が一体どこにあるんだろう?という答えに行き着いては、行動を起こすことを諦めてしまう。

ただなるべく深く考えないようにするためにも、その諦める行為は、今の私には必要なもののように思う。
考え過ぎて、深みにはまるより、早めに引いた方が良い。

熱くなり過ぎると、冷めるのにも時間がかかるんだから。



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ