ヅラ

□joy 4
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桂さんが女性に対して、どういう態度をとるか。

---------正直、まったく考えたことがなかった。

長い間、実に、長い間、私は、桂さんを見て来たのだが、よくよく考えれば、桂さんの対女性についての行動を、見たことなどなかったのだ。
きっと、いろいろとあるにはあったんだと思う。
なんせ、桂さんをはじめとする彼等は、モテていた。
そりゃ、もう、女とか男とか関係なく、モテていらっしゃった。
一番派手だったのが高杉さんだったと聞いているけど。
あの坂田さんだって、割と人気あったんだよね、女の子から。
周りの女子が話しているのをかすかに記憶している。

私はというと、全力で桂さんしか見ていなかったので、他の人の人気がどうであろうと全く興味がなかったのだ。

そんな私が見ていた限り、桂さんが特定の女の子と二人きりでいるとか、遊びに出かけたとか、っていう場面に遭遇したことはない。
もちろん、村塾が、あんな結末を迎えて、皆、散り散りになってしまってからは、毎日の桂さん観察は出来なくなってしまったわけで。

戦争が終わって、再会(桂さんにしたら、初対面なんだけど)するまでの間に、どんな人生を送って来たかなんて知りえることなどできない。
だから、私の中で、桂さんの女性に対する行動というか、態度というか、生態?がどのようなものか、ごく最近になって初めて知りえた事なのである。





あれだけ打ちのめされたっていうのに、私ときたら、結局、桂さんの言うことに刃向かうことなどできるはずもなく、今日も誘われて、幾松さんの店にきてしまっていた。

(・・・・見たくないものばかりだな。)

桂さんが今日も甲斐甲斐しく店の手伝いをしている姿。
幾松さんがごく自然にそれを受け入れいている姿。
得意げな顔で桂さんが幾松さんに話し掛けるところとか。
冷たくあしらうわけでもなく、でも馴れ馴れしくするわけでもない、絶妙な距離をとって接する幾松さんの大人の女な部分とか。

ことり、と美味しそうな湯気をたてて、私の前にラーメンが置かれる。

「ありがとうございます、桂さん。」

「また来てくれて嬉しいよ。」

カウンターの中から、幾松さんが声をかけてくる。
それに私は軽く会釈して答える。
桂さんがラーメンを運び、幾松さんがお客さんに挨拶する。

(なーんか、息あってんなぁ、おい。)

ラーメンを啜りながら、日に日にこの店に馴染んでいく、桂さんを目で追った。
幾松さんに対しての桂さんは、私が初めて見る彼だった。

(・・・・なんか、楽しそう・・・だなぁ、桂さん。)

普通の女性に対して見せる顔と、私に対しての顔が違うことは、ちゃんと理解してるつもりだった。
私は、部下であり、共に戦う同志でもあるのだから。
何も知らずに知り合っていれば、私にもあんな顔を向けてくれるのだろうか、なんて思ってしまうのは、やっぱり乙女モードな私であって。
だめだ、と邪念を振払うのは、もう1人の攘夷志士の私だ。

物思いに耽っていたら、厨房から突然大きな音がした。

「どうしたんですか!?」

思わず声をあげて、立ち上がった。
カウンター越しから中を覗くと、ぐったりと倒れた幾松さん。
と、彼女を抱き起こす様に支えている桂さん。

「幾松さんっ!!大丈夫ですか?!」

私はあわてて、厨房内へ入り、傍らにしゃがみ込んで声をかけた。

「あぁ、すまない。ちょっと昨日から風邪ぎみだったんだ。」

か細い声で答える幾松さんの額に手をあてると、じわっと熱が伝わってきた。

「熱、ありますね。」

「幾松殿、大丈夫か。何故こんなになる前に、休まなかったのだ?」

「そう簡単に、店を休むわけにはいかないさ。それに、今日はあんたらが来ることになってたからな。」

「幾松殿・・・。」

幸い、ちょうどお客さんが引いた所で、店には私たちしかいなかった。

「・・・もう、店閉めますね。」

私はのれんを終うために、厨房を出て、店先へ向かう。

幾松さんを心配して、顔をゆがめる桂さんを見ていられなかったのが、本音だ。

相手は病人なのだ、心配して当然で。
それなのに、嫉妬してしまう私がいて。
のれんを終い、準備中の立て札をし、店の扉を閉めた。
厨房からは幾松さんに肩をかし、腰に手をまわす桂さんが出て来たところだった。

「上で休ませよう。」

「はい。」

私も二人に続き、2階へ登る。

「幾松殿、布団はここか?」

ぐったりしている幾松さんをそっと降ろして、桂さんは、布団があるであろう押し入れの襖に手をかけた。

「桂さん、私が。」

条件反射とでもいうのか、桂さんの御手を煩わせるわけにはいかない、と私は代わりに布団を取り出し、畳の上に敷いた。

幾松さんを寝かせながら、私は、この後どうすべきか、物凄いスピードで計算をしていた。

桂さんのことだ、きっと、看病すると張り切るにきまっている。
そんなことされて、万が一、桂さんに風邪が移りでもしたら、大変だ。
となると、どうにかして、ここから帰ってもらわねばならない。

・・・・それに、ぶっちゃけて言えば、これ以上、この二人に仲良くなってもらっては困る。
ほら、弱ってる時って、何かと、危ないじゃん。
すぐさま、私は行動に映した。

「桂さん、今日はもう帰りましょう。人がいたのでは、休めるものも休めませんよ。」

「いやしかし、1人きりでは何かと不便であろう。ここは俺が残って看病を」

「(やっぱり。)だめですよ、桂さん。万が一風邪が移ったりしたらどうするんです?」

「何を言う。俺は風邪などひかぬ。大丈夫だ。」

「(うん、知ってる、風邪ひいたとこ一回もみたことないもの)桂さんが風邪のウイルスに勝てたとしても、他の者はそうはいきません。桂さんを媒体にして、ウイルスを持ち帰ってみてください。まず、一番はじめにウイルスにおかされるのは、エリザベスさんでしょう。」

「なに?!エリザベスが?」

「はい、しかも、エリザベスさんは、人間ではないですから、きっと私たちと同じ様な薬では直らないかもしれない。そうなったら、苦しむのはエリザベスさんなんですよ!」

私は、なんとか桂さんの意識を看病から遠ざけようと、デタラメな妄想を、さも真実味を持たせて話す。

「それは・・・・一大事になるな・・・。」

「(あとひと押しか)だから、桂さんは屋敷のほうで待機していてください。何かあれば私が呼びますから。」

「そうか、うん。苗字君がついていてくれるなら、まぁ、安心だ。」

「はい。幾松さんのことは任せてください。」

「あぁ。任せたぞ。」

桂さんを何とか説得して、無事にここから帰せそうだ。
部屋を出る桂さんを、取りあえず見送るために、後ろをついて行く。
桂さんが部屋を出る際、振り向いて幾松さんを心配そうな不安げな瞳で見つめた事は、うん、見なかったことにしよう。

私が好きな目はあんなんじゃない。

私が好きな目は、もっと熱くて、確固たる自信を讃えていて、何にも揺らがない、真直ぐな瞳だ。

あんな・・・ゆらゆらと僅かな不安が見えかくれするような目じゃない。


先程のはじめて見た桂さんの目が思い浮かぶが、それを打ち消す様に、自分が惚れて止まない、強い目をした桂さんを脳内イメージに溢れさせる。
そうでもしないと、この胸の内のモヤモヤが大きくなってしまう。






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