ヅラ
□joy 3
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私は何も望まないフリをして
ホントはどえらいことを願ってやまないのだ
その、いつも炎を潜めてる熱い瞳に
映りたい。映してほしい。
特別に、私1人を映してほしい。
駄目だな、最近。
あの日、ラーメンを一緒に食べに行ってから、絶対的な自信のあった想いが、揺らぎ始めている。
駄目だ、ほんとに。
私の中で、同志として尊敬している、という厳かな思いと、どうにかして特別視されたいと願う浅ましい思いとがお互いを揺らしあっているのだ。
だめだ、女として生きていこうなんて、思うな。
そんなことしたら、一生、側にいれなくなっていまう。
同志だから、仲間だから、運命を共にできるんだ。
このままでいれば、一生、一緒に戦っていけるんだから。
・・・・・・・だいたい、わかっているのだ。
桂さんは、人妻好き。
年下の独身女性なんて、てんで眼中にないのだ。
ましてや、私なんて、同じ攘夷を志す仲間。端から、異性としてのカテゴライズはされていない。
桂さんは、幾松殿に、親愛の念を感じているようだし。
・・・・綺麗で、未亡人で、料理がうまいって。
最強じゃんか。
なんだよ、完敗じゃないか!
あ、やば、自分で考えてて、気分悪くなってきた。
だから、嫌なんだ。
こうして、ふと気付けば、「女」としての想いに乗っ取られてる事が、最近増えてきて、嫌だ。困る。
「女」としての、当たり前の想いを巡らせれば、その後には、志士としての自分が自身を叱咤する。
最近、ずっとその繰り返しだ。
玄関の戸が開く音がしたので、向かってみると、私の思考を独占してやまない彼がいた。
「あ、あの、桂さん。今日は…どちらへ?」
うまく自然に聞けてたかな?不自然じゃなかったよね?
「ああ、今からちょっと、銀時のところへな。」
「そうですか。気を付けてくださいよ。最近、また、真選組のやつら、桂さんの捕獲に躍起になってますから!」
「ははは、苗字君は、心配性だな。俺があんなバカ共につかまるわけがなかろう。」
「そうですね。いらぬ心配をしてしまいました。でも、桂さん、今日は夕刻から、同志を集めての会合がありますので、それまでには帰って来てくださいね。」
「わかった。では、行ってくる。」
「いってらっしゃいませ。」
私は軽く頭を下げて、桂さんを送りだす。
笠をかぶり江戸の街へ消えて行く桂さんの後ろ姿を、見えなくなるまで見送った。
銀時・・・坂田さんか。
あの人も、江戸にいるんだっけ。
なんだかんだで、桂さん達は、腐れ縁だ。多分、どんな鋭利な刃物を持ってしても、切れることのない絆で絡まって、お互いを引き合っているのだ。
今も昔も。
どんなに側にいようとも、やっぱり、あの人たちには、勝てないか。
憎まれ口たたきあったっても、想いあっているのは、事実。
羨ましい限りだ。
やっぱり、というか、マニュアル通りに、桂さんは、帰って来ない。
約束の会合の時間が迫ってきているのに。
なかなか帰ってこないことで、仲間が不安そうな声を出す。
「苗字さん、桂さん、戻られないんですけど・・・どうします?」
「・・・・・はぁ。行き先はわかっているから。連れ戻しにいくか。」
「お願いします。そういうこと、桂さんの操縦士である苗字さんでないと、無理ですからね。」
「なに、それ。操縦できてたら、こんなことになってないでしょうが。」
「あはは、それもそうだ。」
「とにかく、なるべく間に合う様にするから。もし、時間が過ぎるようであれば、くつろいで待ってて。」
「はい。」
他の仲間にその場を任せ、私は、とりあえず、桂さんを連れ戻しに、目的地へ向かうことにする。
坂田さんは、確か、かぶき町で万屋を営んでいると聞いていたが。
場所は、なんとなく把握している。
でも、実際は一度も訪れたことがないので、足取りは曖昧だ。
この辺は、真選組の屯所が近い所為もあって、近寄らない様にしている場所でもあるからだ。
要らぬ面倒ごとは避けて通るのが、私の信条でもある。
夕闇も近づいていることもあって、私は、笠もかぶらず、帯刀もしていない。
桂さんを迎えにいくだけで、危険なことなんて何もないのだから、と、身軽な格好で出て来た。
が、甘かった。
うん、自分、甘かったです。
数分前の自分に後悔です。
数メートル先から、見覚えのある黒い影が見える。
丸腰で会いたくない連中、第1位。
真選組の野郎共だ。
やばい、無闇に方向転換しても、絶対、疑われる。
なら、何食わぬ顔で、すれ違うべし!
大丈夫、私、顔は割れてないはず。
桂さんみたいに、派手にやり合わない(主義だ)し、目立つ様なことも極力さけて行動してんだから。
何より、一度だって、こいつらに鉢合わせになってやり合うことなんてなかった。
大丈夫、大丈夫、なんでもない顔しとけ、自分!
2メートル、1メートルと、お互いの距離が縮まって行き、すれ違う。
ほっ。
なんとか、なった・・・かな?
1歩2歩と、縮まった距離をまた離していくために、足を進める。
「おい。」
「!」
うしろから、絶対に振り返りたくない、呼び声がかかる。
「そこの女、お前だよ。」
呼ぶ声に、ほんの少しだけ苛立ちの色が混じる。
やばい、振り返らないでいるのも、不自然だ。
ゆっくりと顔だけで、振り返る。
「な・・・んでしょうか?」
「落としたぞ。」
ほれ、と確かに私の小さい小銭入れを差し出された。
「あ、ありがとうございます。」
やばっ、あの中には、特製超最小簡易起爆装置(手作り)を入れているのだ。
やばい、やばい、まじ、やばい。
目の前のこのアホが、何もわからず触って、爆発しちゃったらどうすんのっ!!
内心焦りながらも、顔には薄く笑顔をたたえ、お礼を言って、それを受けとる。
なんとかやり過ごせそうだ。
こんな所で、道草なんかくってられないんだから。
早く、桂さんを連れて帰らないといけないのに。
ちょこっと頭を下げて、その場を立ち去ろうと、踵をかえす。
と、同時だった。
「副長、この女、攘夷の人間ですっ!」
それまで、まったく口を開かず、というか、その場にいるかどうかも不確かな存在の男が、急に大声をだして私を指差した。
「ちっ。」
その瞬間、私は走り出す。
「おい、待て、コラッ!!」
後ろから、物凄い勢いで怒鳴りながら、追い掛けてくる黒い人。
つーか、すでに抜刀してるんですけど!!!
刀片手に猛然と迫ってくる男。
その後ろを同じ様に追ってくるのは、さっきの地味なくせに、めざとく私の正体を暴いた男。
まじかんべんして。
こっちは、丸腰だっての。
散々走って、ちらり後ろを向くと、やつらはだいぶ後方にいた。
なんとか、捲けるかな、とわずかな安心を感じて、前方へ向き直すと、そこに、最も会いたくない人間がいた。
バズーカーかついで。
「く〜た〜ば〜れ〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
とんでもない爆発音を響かせて、辺りは煙りに包まれる。
「総悟ぉぉぉぉぉぉ!!!!やりすぎだっ!!ゴホっ」
咳き込みながら、真選組副長の土方は、沖田に駆け寄る。
「やつは桂の側近ですぜぃ。な、山崎。」
「はい。なかなか表立って動かないんで、顔割るのも一苦労でした。でも絶対、彼女に間違いありませんよ。」
「で、どうすんの、これ。」
と、土方はあきれ顔で、まだ煙りが漂うあたりを見回す。
「あの至近距離で被弾して、死んでんだろ。」
煙りが引くのを待って、女が倒れているであろう、場所を見る。
が、そこには何もなかった。